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ゴミ、寂しいけれど。

「いただきます」  三月最後の日。明日からは四月だ。  その日の食卓にはルーク、テディ、春太の三人が揃い、手作りのカレーを頬張った。  意外なことに、ルークは辛いものが苦手で、ココアの粉を隠し味に入れた甘いカレーが評判だった。  今日はなにがあった、あれはこうだった。  そんな日常の出来事を話す姿は、初めてあった頃のあの冷たい空気などどこにも無い。  春太は仲良く並び食事をする二人の親子を見つめて微笑んだ。 「ルーク。ちょっといいかな」  夜。テディを寝かしつけたあと、春太はルークの部屋を訪れた。 「なんだ?」 「……ん、あのさ」  ベッドの上に座るルークの隣にいき、肩を合わせてちょこんと並ぶ。  春太は恥ずかしげに俯いた。そして、頬にかかった髪の毛を耳にかけながら、ルークをおそるおそる見上げて、震える声で問いかける。 「……あの。キス、しない?」  潤んだ薄茶の瞳に、瞠目したルークが映る。  壊れてしまいそうなほど高鳴る鼓動は、部屋中に響いているかのようだった。  数秒後。ルークは迷いを浮かべて首を振る。 「だめだ」  これで最後だ。最後のキス。  だから例え拒まれても僅かな可能性があるのなら縋りたい。 「どうしても? ほら、だって。吸血しないとだめだろ? 今までだってキス、してきたじゃん」  自分はなんて惨めだろう。嘘を重ねて、自分で口にした理由に傷ついている。  ルークと交わす口付けに意味がないと知って、心臓がぎゅっとする。 「我慢、できなくなる」 「……っ」  月光に照らされた美しい顔が、苦しげに歪んだ。春太と同じように、熱に浮かされた紫の瞳が、水面のように揺らめく。  そんな顔を見せられたら、もう引くことなんて出来ない。  春太は迷うルークの手をとると、初めて自ら口付けた。  そっと触れ合った皮膚が火傷したかのように熱くなる。 「……我慢しなくていい。でも、いつものルークでいてほしいんだ」  フェロモンなんて使わなくても、ルークに触れられるだけでどんなに幸せか。  もう一度触れるだけのキスをして、そっと離れた春太が切なげに笑んだとき。  ルークが吐息さえも食らうような口付けで応えた。  何度も角度をかえて、舌を絡めて深まっていく。二人だけの吐息が静かな夜を熱く塗り替える。  二人はまるで何かに追われるかのように、いっときも離れず服を脱いだ。  そして、月夜に照らされた春太の肢体を見下ろして、ルークは「綺麗だ」と美しい唇で紡ぐ。 「はぁ……っ、ん、ぁ……きもちい、っ」  胸の尖りを舐められて春太が喉を晒して喘ぐ。  腹にそり返るほど勃ちあがった性器から蜜がこぼれ落ちた。  腹にたまった陰液をすくい取り、ルークの長い指が後孔に触れる。  柔く迎えた淫らな入口は、きゅうっと指に吸い付いた。 「……な、ならしてきた、から。もう、いれて、大丈夫だよ」  春太が真っ赤な顔を隠すように呟くと、ルークの喉がごくりと上下した。  目の前に晒された極上の肉に食らいつくかのように、ルークの身から溢れんばかりの色香が放たれる。  春太は自分を抱く男を網膜に焼き付ける。  たとえ、意味がなくてもいい。吸血の変えであってもいいから。  好き。好きだ。貴方が好きだ。  言えない思いを、甘い声に書きかえて、春太を貫く熱い楔に悶えた。 「あぁっ! おく、きてぇ……っ、もっといっぱい」  何年、何十年たっても忘れないように。  こうして、重ね合わせた肌が幻にならないように。  春太の体にルークを刻み込んで欲しい。 「ふ、っあ、るーく……っ、るぅく……っ!」  春太が幼子のように名を呼ぶ。すると、求められたルークは先程よりも激しく春太を穿った。  ぐちゅり、ぐちゅりっ、と淫靡な音に混じり、ルークの興奮した呼気が聞こえる。  それだけで達してしまいそうなほど興奮した。  恐ろしいほど整った顔。腰をゆらすたび盛り上がる、男らしい腹筋。春太を抱きしめる長い手足。何度見ても神秘的だと思う紫の瞳……。  春太はルークに撫でられるのが好きだった。  たまにする喧嘩も、ちょっと細かいなあと思う神経質なところも。  人をゴミだと堂々と言い放つくせに、何も知らない無垢な子供のような傲慢な男に、いつの間にか恋をしてしまった。  ──ルークが好きだよ。  言葉に出来なかった思いが、噎せ返るような熱い空気へと消えていく。重なり合った汗ばんだ肌から伝わってしまわないかと思うほど、思いは溢れるのに言葉にはできない。  だから春太は愛しさを瞳にのせた。  この夜をいつまでも忘れないように、春太は最後の時まで美しい世界にルークだけを映した。

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