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【1】第一印象
※まえおき※
異世界から勇者を召喚したり、異世界から少年少女がやってきたりするファンタジー世界の現地住民の話です。
(国は違いますが「妹があまりに泣くので俺は時間を戻すことにした」と同一世界)
異世界の人間が残した言葉は「勇者語録」として書籍化されて、各国にあります。
「勇者語録」の内容はことわざからネットスラングな言い回しや偏った雑学まで様々。
Twitter(https://twitter.com/hadumi2020)に小ネタや没にするか悩んでいる話など掲載しています。
公開はファンボックス(https://ha3.fanbox.cc/)が最速です。
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『私はお前を愛することはない』
その言葉に傷ついてなどいないと思っていた。
傷つくはずがない。
初めて会った相手だ。
傷つく理由がない。
愛されることを期待していたのなら傷つくだろうが、事前の情報で相手が異性愛者であり、同性である自分との婚姻に乗り気ではないと聞いていた。
この可能性は分かっていた。
俺のことを好意的に思っていないと心構えはできていた。
突き放すような言葉に傷つくこともなく微笑んでうなずく。
余裕のない態度は恥ずかしいものだと教育されている。
怯えてはならない。震えてはならない。泣くことなどあってはいけない。
現、国王の甥にあたる人間だとしても少し年上なだけのクソガキ相手に負けを認めるなどありえない。
内心で「俺にそんなことを言える立場かよ。自分を分かってるのか」と吐き捨てる。
俺は自分の価値を何より知っている。
誰よりも状況を分かっている。
今回の結婚の意味も意図も必要性も分かった上で、ここに居る。
政略結婚というには一方的な要請だった。王命だ。
安産という異能を持つエビータ一族の俺は結婚を断る権限がない。
自分のことでも自分で決められない。
俺の管理は俺の手に委ねられていない。
自由などない。
決められた相手と寄り添うのだと生まれた時から教えられていた。
だから、愛を期待するなと言われたところで傷ついたりなどしない。
エビータが子供を産むための道具として使われるのは今に始まったことではない。
俺が不当な扱いを受けているわけではない。
すでに結婚して家を出た姉たちも望んだ相手との結婚というわけではなかった。
世の令嬢たちのように恋愛小説に夢を見たりしない分だけ、俺のほうが余裕があって、心穏やかだろう。
なにせ、愛されなかったとしても男だから仕方がないと言い訳ができる。
男同士の関係は友情に毛が生えたものだと思っていたが、それすらも望まれないなら、どうだっていい。
初潮もまだな妹が嫁ぐよりも精神的にマシだ。
クソ野郎から妹を守れたという達成感がある。
幼い妹が過酷な場所に一人で嫁いだ場合を考えると後悔と怒りが湧く。
初対面で自分の子供を産む相手を尊敬するでもなく、拒絶する、頭のおかしな相手。
そんなクソ野郎と妹が接することがなくて良かった。
カーヴルグス公爵家に嫁ぐのが俺だったのは、不幸中の幸いだ。
それが自分の旦那になる男、アリリオへの第一印象だった。
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