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【21a】経験済み

「くだらない夢のことは忘れろ。」 普通なら、未来の情報を聞き出して、対処するために動きそうだが、一貫して必要ないという態度だ。 これは異能の発現がなく、自分が未来を視ることがないコンプレックスからの冷たさなんだろうか。 自分が出来ないことを俺がしているので当たりがキツい。 息子への当たりのキツさも、無意識に異能持ちへの嫉妬心があるかもしれない。俺も体液を硬化させるベラドンナのような能力があったら、戦闘面でアリリオさまの役に立てたはずだ。 自分が達成できていない何かを誰かが持っている何かのせいにしようとする。 俺が女性で、豊満な肉体で、使い勝手のいい異能持ちでだったのなら、もっと、役に立って、すんなりと愛されたのではないのか。 その妄想は現実が否定してくれている。 俺が男性で、安産の異能を持つエビータ一族の人間だからこそ、結婚相手に選ばれた。俺以上にアリリオさまに相応しい人間はいない。 自分の中にある理想と現実のギャップを他人のせいにしてしまう。 アリリオさまの手にある本が急に動き出した。 先程から活発だ。それとも、以前から動いていても俺が無視していたのかもしれない。ベッドの中では、溜め息ばかり吐いていた。 アリリオさまが「先人からの教えだな」と俺に本を見せてくれる。 開かれたページに書かれていたのは、開発調教だ。 マズい香りのするネーミングだが、初級編として書かれていたのは、セックスへの心構えでしかなかった。 二人の愛を高める素晴らしい行為だと信じること、積極的にセックスをしたいと思うこと、事前に相手とのセックスを想像して自慰に励んで、気持ちを作っておくこと。 性感帯は刺激し続けなければ意味がない。 気持ちよくなる場所だと信じて、舐めてこすって甘噛みして、ただの皮膚ではなく、エッチな場所だと教え込む。 最終的に手を握ったり、頭を撫でるだけで達するようになること。 「無茶では?」 メチャクチャ、アリリオさまが俺の手を揉むのは調教の最終段階に至ったのか、確認のためだろうか。 ある意味、ものすごい真面目なのかもしれない。 「無茶ではないだろう。貴様は上級者とされている内容を続々とこなしている」 ちなみに俺は初心者向けの説明内容しか読めない。 アリリオさまがめくったページは意識が遠のきそうになるほどの眠気が来るので、概念的処女の俺には閲覧制限が掛かっている。 アリリオさまの言い分だと俺は上級者の内容をクリアしているらしいので、この認識の差はおそろしい。 俺はここに来て、本の素晴らしさと正しい使い方を理解した。 元々は、恐怖の性癖博覧会ではなく、もっと親切なものだ。 夫婦関係で行き詰ったら、私をお読みというありがたい本だった。 俺が最初から行き詰っていたから、アリリオさまへ本から指示が飛んでいたのだろう。 日々の予定をこなすような、義務的子作りだと思っていたが、本が提唱する夫婦の在り方を鵜呑みにした行動だ。 普通は、もくじを見て、項目の行動らしきことをしてみて、本の中身をコンプリートするのかもしれない。 あるいは、自分が好きなプレイの関連を調べて、夫と試して楽しむのだ。どちらにしても、一足飛びで、先に進むことを推奨しているわけではない。 開発調教の中にある、自己開発について読む。口の中や乳首や前立腺、別冊に誘導されるものも多いがなんとなく分かった。 「目指せ、中イキってことですね!」 俺の理解の速さに感動してくれるかと思ったが、アリリオさまは「経験済みだろ」と不思議そうな顔をする。なかなか見ない表情だ。 「浴室で、死ぬ死ぬ言っていたことがあった」 「湯船に顔が浸かって、死にかけていたので――」 「気持ちよかったのだろう」 そんなわけあるかいとツッコミたい気持ちを一呼吸おいて、落ち着かせることにした。 「俺は溺れるなら、湯船ではなく快楽に溺れたいです。激しくゆすられるより、アリリオさまに抱き着いている方が、気持ちいいです」 今もローションによる嗅覚の変質は効果があるのか、アリリオさまの匂いに唾液が止まらない。 背中にくっついていたり、横顔を見つめていたいが、仕事の邪魔だと追い払われそうだ。 ジッと見つめていると本で、軽く叩かれた。 「エビータの叡知を雑にあつかわないでください」 「それは貴様だ。こんなものを渡されては、リーが困るではないか」 俺の意識がない間にリーがアリリオさまに訴えたのだろうか。 そもそも、たびたび目覚めるとアリリオさまが居ることがおかしい。俺の意識がなくなってもリーとライは、命令されたなら部屋の扉付近から動けない。リーとライから連絡があれば、アリリオさまが俺の様子を見に来なければならない。 俺への嫌がらせにお腹をパンパンにしていることをリーとライに悟らせないためかと思ったけれど、心配されているのかもしれない。 入ったから大丈夫だと言いながら、本当は、ラチリンをお中に入れすぎて、こいつ大丈夫かと俺に対して思っていたのかもしれない。 そうでもなければ、仕事を放棄して見に来ない。 ちんこを噛んだことを許していないので、俺に対して報復をしたい気持ちと夜に向けての拡張と体調が心配だからベッドから動くなということを含めて、お腹をパンパンにしだしたのだろう。 俺の精神状態が不安定だから、万が一にもベラドンナと鉢合わせないようにという考えもあったのかもしれない。 俺への優しさがあるはずと思うと、アリリオさまの行動が少しだけ見えてくる。 「リーとライにセクハラするつもりはなかったんです」 「セクハラ? この本の価値を考えろと言っているのだが?」 「生きた魔本だという自覚はありませんでした」 「ならば、自覚していろ。この一冊で、小さな国なら買える。そんな品物を侍女の手に渡すのは哀れだ。本人たちは喜んでいるが」 主人の高級品に近づくことが出来る使用人は特別だ。 信頼されているから、価値のあるものに触れることが出来る。 誰も盗人の前で、宝石を見せびらかしたりしないだろう。 リーとライに信頼の証で本を渡したわけではないので、気まずいが、思い返すと本を手にしてからの二人の反応は、やわらかかった。 「アリリオさまも、価値があるものの使い方が独特ですよ。ラチリンはとても美味しいものなのに、こんな使い方をして」 お腹に触るとゴツゴツラチリンを感じる。 普通に食べたい。 下の口から食べたくない。

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