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〔一a〕鈍感な人間
魔王とは、世界を壊せる力を持った存在のことを言う。
魔獣が魔王にならないように発生次第、討伐する。それは、人類の長い歴史の中で、一度だけ魔獣が魔王になった例が確認されていたからだ。
とはいえ、基本はヒトガタで、知能がある個体が魔王になる。
銀髪にアイスブルーの瞳は、魔王の特徴の一つだと言われている。
我が国の王族は寒色の髪や瞳の色で生まれてくるとされていたが、魔王の特徴だと言われるようになって、王族らしい色合いという表現は規制されるようになった。
この国で色の話題が禁じられている理由の一つはここだ。
黒髪の魔王も赤髪の魔王も居たが、銀髪の魔王は元が王族であり、どんな人物だったのか記録が残っているため人々の印象に強く根付いてしまった。
そのため、銀髪の魔王を産んだとされる黒髪の人間への迫害が始まり、再び、魔王が現れた。黒髪の人間たちを守るために行動を起こした魔王の色彩が銀髪だったかは知らないが、人々の中に色についてのタブーは生まれた。
リーが私のことを魔王の先祖返りではないかと口にしたことを詫びていた。魔王に対する話題自体が、色について言及するのと同じようにタブーなのでショックを与えたのかと心配していた。
彼が意識を失ったのは、魔王の話題は関係ない。
魔王や勇者についての知識はエビータのほうが、くわしいはずだ。
おだやかな寝顔が多い彼の眉が寄っている。
閉じられた瞳が半開きになったと思ったら、涙があふれた。
思わず頬を強く叩いてしまった。
目を覚ました彼は、まばたきで涙を散らして、こちらを一瞬だけ見て、うつむいた。
来るはずがない将来の映像という不毛なものを見せられて、戸惑っているのかもしれない。用意していた液体を「これでも飲め」と渡すと受け取ったが、口をつけない。
「尿意が……えっと、この貞操帯は、外してくださるんですよね?」
「貴様の態度次第だ」
外す気はなかったが、外さないと飲まないなら、外すべきだろう。
本人は寝汗をかいている自覚がなさそうだ。
彼は唐突に「アリリオさまは、騙されてます! この本は嘘つきです!!」と本を批難した。
本のせいで自分が窮地に追い込まれているという顔をするが、彼の場合、ほとんど自業自得だ。
必死に腹の中のラチリンを出したいと訴える彼の姿は滑稽で愛らしいせいで股間が痛い。
彼は自分が私の男性器に何をしたのか覚えていない。あるいは、私のことを痛みに鈍感な人間だとでも思っている。
貞操帯の鍵を渡したが、彼はずっとこちらの性器への攻撃を続ける。今は、勃起することに痛みを感じるのだが、あれもそれも彼が卑猥な発言を繰り返すからいけない。
興奮しないように自重しているこちらを無視した誘惑の数々。
思い出すと耐えている自分が不能に思える。
姉に卑猥な本の音読をさせられたことがあると言っていたので、意味も分からず、いやらしいとも思わず、下品な単語を覚えてしまっているのかもしれない。
「俺は溺れるなら、湯船ではなく快楽に溺れたいです。激しくゆすられるより、アリリオさまに抱き着いている方が、気持ちいいです」
純粋な子供が良い言い回しを思いついたと言いたげな顔だが、口にした内容に子供らしさはない。
物欲しそうな視線に抱き寄せたくなるが、性器が発する痛みを考えるとこれ以上の接触はいけない。
つい、彼がベッドに度々持ち込む、エビータの性行為の手引書で叩いてしまう。
不満そうに「エビータの叡知を雑にあつかわないでください」と返されると、私としても穏便な対応はできない。
彼は自分の価値も、本の価値も、まるで理解していない。
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主人公の意識を覚醒させるため以外でのアリリオの暴力(軽く叩いたりお腹パンパンも含め)は、勃起して痛いから、ムラっとさせるなっていう意思の表れです、
そう思って読み返してみると、印象がちょっと違うかも?
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