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感情

 梓先輩は目を見開いて嬉しそうに言った。 「どういう意味ですか?」  そうしてこんなに嬉しそうなのかが理解できない。 「和臣は僕の言うことなんて聞かないから、なのに喋ったってことは、僕の言うことを聞いてもいいくらいには凹んでるってことだよ」 「何で桃香先輩が凹むと嬉しそうなんですか?」 「別に嬉しいってわけじゃないけど」 何かを含んだ言い回しにイライラする。 「B寮の歪は大きいみたいだね」 それは昨日叔父さんからも聞いた。 桃香先輩が喋らないことで生まれる歪。 「このまま桃香が喋るようになったらいいんだけど」 声のトーンが落ちた。その言葉で気が付いた、この人は元副寮長としてちゃんとB寮のことを気にかけているんだと。決してB寮の事を探りに来たんじゃ無いと。 俺と喋ったという事は、桃香先輩も喋らざるを得ないと確信しているんだということだ。 「僕がいつまでも和臣のそばにいちゃダメなんだよ」  甘やかしてばかりいる人間が側にいてはだめだと、梓先輩も気がついている。 「……でも、それは俺じゃ出来ないですよ」 「どうかな。和臣は喋ったんだから」 「それは、今、俺が側にいるからであって、また人が変われば……」 副寮長が決まるまでは俺は部屋の移動が無い。 「それは無いよ。和臣は自分が決めたことじゃないと動かないんだから。少なからず、他の人間よりは響ちゃんを気に入っているから喋ってるんだよ」 「俺、何もしてないですよ?」 「だからじゃないかな。和臣のこと知らないから、脚色無しで見てるからだと思うよ」

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