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感情

「それは、俺が編入してきたばっかりってだけじゃないですか」 「まあ、それもあるけど。和臣よろしくね」 バイバイと手を振って梓先輩は去っていった。俺が教室に戻ろうと振り返ると、廊下の角から人影が消えた。その角の先は階段があるはずだ。 見張られている? 嫌悪感が背中を伝って、顔を顰めながら教室に戻ると、春が「モテモテだね」とからかった。 「何しに来たのか分かんなかった。桃香先輩が喋ったのかって聞きに来ただけみたい」 「え? 桃香先輩喋ったの?」 春の言葉に周りの席の生徒がこっちを振り返った。そのいかにもな動きに驚いて、小声で「あ……いや、まあ」と曖昧に返事を返した。 周りに敵を増やしたくは無い。聞き耳を立てられているのを感じたから。俺だって快適な学生生活を送りたいのだから。 桃香先輩の話となると聞き耳を立てられているのを肌で感じた。桃香先輩自信は常にこういう状態でいると思うと他人事ながら気が滅入った。 授業が終わって寮の部屋に帰ってソファーにうつ伏していると、『カチャン』と音がしてコーヒーカップを手に持った桃香先輩が部屋から出てきた。 どうしたんだ? と言うように俺に視線を向ける。 「なんでも……無いですよ」 桃香先輩とは反対に顔を背けた。 フッと近づくコーヒーの香りに桃香先輩が近づいて来たのが分かった。 髪に何かが触れた。 それは温もりを持って俺の頭を数回撫でて離れた。 俺はガバッと顔を上げた。 「声……ね、もっと喋ってよ」 桃香先輩はギュッと眉間に皺を寄せると俺から離れて自室に入って行ってしまった。 梓先輩は時々やってくる。

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