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『変わらない情景』
『……ルルルルッ………ルルルルッ……ルル』
何度も鳴るその音に意識が浮上した。聞き覚えのあるその音は部屋の施錠を求めるチャイムで、誰かがこの部屋を訪ねて来たことを訴えていた。
まだ重い瞼を擦り起き上がろうとして自分にかかった重みに気がついた。
背中から抱き締めるように包まれていることに気がついて、一気に昨日の晩の記憶が蘇った。
鳴り続けるチャイムを気にしながら、後ろから抱き着いている桃香先輩を揺すった。
「………先輩、誰か来たんですけど、ちょっと、起きて」
強く抱き締められたままだから身動きが取れない。
「……ん……」
手を伸ばして何かを探している。バンバンと片手でベッドの横にあるサイドボードを叩くと目的のものを見つけたらしく手を止めた。
俺からは見えないその動きに何をしているのかと振り返ろうとはするけど、動けなかった。
「……腰痛い」
腰の痛みに呻くと、するりと腕を解いた桃香先輩が横に起き上がってベッドに座った。捲れた布団を肩の上まで引き上げてくれた。
桃香先輩が手に取ったのは携帯だった。
まだ鳴り続ける呼び出しのベルに、眉間に皺を寄せたまま携帯を弄った。
耳に当ててすぐにベルの音が止まった。きっと桃香先輩が掛けた相手と、ドアの向こうにいる人物が同じだったのだろう。
ボソボソと喋るとベッドから立ち上がった。
床に落ちていた服を着込むと桃香先輩は出て行ってしまった。
昨日の記憶に羞恥しながら布団から顔だけを出して部屋を見渡した。学習机と本棚があって、俺の部屋と変わりない。
ゆっくりと寝返りを打って起き上がると枕を背にしてベッドに座った。エアコンがついているとはいえ、裸では寒くて自分の服を探そうと布団を捲った。
『ガチャ』
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