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『変わらない情景』
「響ちゃんっ。おっはよぉっ」
「………」
俺は慌てて布団をかぶったけど、梓先輩はくすくす笑いながら部屋に入ってきた。
俺は布団を肩まで引き上げて、梓先輩の後ろにいる桃香先輩に視線を投げる。
「一臣が昨日電話でどうするかなんて聞いてくるから、心配してたんだよ?」
その表情は明らかに面白がっている。
「一臣優しかった? 最初っからガンガンやられてない? 起き上がれる? 無理?」
一気に聞かれるが、首を横に振るばかりで返事に羞恥して顔は見る間に赤くなった。
「梓。帰れ」
近くではなく、ベッドの足元から桃香先輩が声を上げた。そのことに驚いて桃香先輩を見つめた。
「何? 僕がアドバイスしてあげたんでしょう。開き直っちゃって。普通に喋ってるし」
梓先輩もそのことに気が付いて僕から離れると、「その調子で休み明けの全校集会でも声出してよね」と言い返した。
桃香先輩は床に落ちていた俺の服を拾うと、俺に向かって投げた。そして梓先輩に近づいて……近づいて、肩に顎を乗せるようにして、ボソボソと喋りだした。
「それは一臣がいけないよ。僕はちゃんと言ったじゃない」
梓先輩は笑いながら返事をする。桃香先輩は眉間に皺を寄せて、俺の方を見ると、また、ボソボソと喋る。
「それを何とかするのが男ってもんでしょう。響ちゃん経験無いんだし」
何の話か全く分からなくて、その喋り方と、俺への扱いに段々と腹が立ってくる。
「そう。まあ、それでいいならいいんじゃない?」
そう言って、俺に「ねえ?」と同意を求めてくる。何の話かさっぱり分からないし、俺よりそっちにくっついていることに腹が立つ。
ベッドに座ったまま肩まで布団を引き上げて、無造作に投げられた服がその上に散乱している。
「……梓先輩、ご用件は何ですか?」
できる事なら引っぺがしてやりたいのに、布団の中は真っ裸なせいでそれもままならない。
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