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第3話

 翌朝、フロアから直通のエレベーターで駐車場に降りる。ミハイルは、俺のライダー姿にちょっと眉をひそめ、耳許で 『あんまりヘルメットを脱ぐな』 と囁いた。  ースーツなら脱いでもいいのか?ーと軽口を叩きたくなったが、後が怖いので止めた。ミハイルの専属ドライバーがハンドルを握り、ニコライがナビゲーションシートに、秘書の金髪美人のタニアがミハイルの隣に乗り込んで、ワーゲンが静かに滑り出す。  タニアは、ニコライの姉だが、笑顔が素敵な美魔女だ。二人の息子がいるとは思えない。彼女の旦那はやはりミハイルの片腕の幹部で、今回は留守を任されている。バイオ部門の責任者でもある。  彼女は俺のライダー姿にちょっと見直したって言ってた。 「やっぱり男の子よね~。似合うわよ。でも気をつけてね。ボスは心配症だから」  俺は手を振ってみんなを見送り、バイクに跨がる。メットを被れば顔は見えない。アクセルを握り、エンジンを吹かすと背中がいい感じにゾクゾクしてくる。 「イリーシャ、行くぜ」  KATANA に跨がったイリーシャが親指を立てる。イリーシャと、チームの皆とはワイヤレスで会話できるようにセットしてある。俺とイリーシャはホテルの駐車場から滑り出し、チームのメンバーが何気に合流する。  東京の道路は渋滞しやすいから、離れないようイリーシャのバイクがぴったり傍に着く。  遥のマンションの前に着き、モバイルでコールを入れた。 『すぐ行く』  弾んだ声が答える。一応エンジンを止めて待つと、昨日ニコライに届けてもらったライダージャケットで、ヘルメットを抱えて遥が降りてきた。側にあの青年が心配そうな顔で着いてきた。 「お待たせしました」  青年が慇懃に頭を下げる。俺は遥のスタイルにチェックを入れる。ちゃんと防弾ベストを着て、足元もブーツだ。ジーンズを持ってた、良かった...と思った。白いカッターシャツが少し余ってる。それにしても、やっぱり細い。  因みに俺はレザーのツナギのライダースーツだ。遥が目を真ん丸くする。 「カッコいい.....てか、色っぽい」 「色っぽい、はいらない」  俺は手袋を渡して、言った。 「後ろに乗って、しっかり掴まれ」 「何処に行くの?」 「横浜だ。言って無かったか?」  遥の顔がぱあっと明るくなる。  遥は、フルフェイスのメットのバイザーを上げて青年ににっこり笑い頭を下げた。 「行ってきます」 .「気をつけて......安全運転でお願いします」  俺は青年にー心配すんなーと親指を立て、エンジンのキーを入れた。モーターの振動が全身に伝わる。堪らない。  遥は、サイドステップに足を乗せ、タンデムシートに跨がり、遠慮がちに俺の腰に手を回した。 「もっとしっかり掴まれ。落ちるぞ」  両手を掴んで、しっかり俺の腹に掴まらせて、ハンドルを握った。マフラーが唸りを上げ、ゴールドウィングがゆっくりと羽ばたきを始める。 「すげぇ....」  背中越しに遥の高揚した溜め息が聞こえた。サイドミラーから青年の顔が遠ざかる。  湾岸線に乗る頃にはチームのメンバーがきっちり周囲を固めてくれた。 「小蓮(シャオレン)?」  遥が不安そうに周囲を見回す。まぁ、デカいバイクの集団だし、みんな目付きはいいとは言えない。下手な暴走族より迫力は数段上だ。  俺は遥に笑いかけた。 「心配ない。俺のチームだ」 「チーム?小蓮(シャオレン)はチームを持ってるの?」  驚いたように遥が声を上げる。 「持ってる。俺がミーシャを護るためのガーディアン-チームだ。今日はオフだけどな」  俺が答えると、遥がまた驚いた顔をした。俺は、俺にとって一番大事な事を遥に伝えた。 「俺のことは、ラウルって呼べ」 「ラウル?」 「俺の名前....プライベート-ネームだ。隆人には内緒な」  ミラー越しに遥が頷いた。俺は少しスピードを上げ、ハイウェイを疾走した。傍らで海の青に光が弾けていた。

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