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第4話 彼の願い

「そういえば、結局君何も聞いてこないけど、取材とかしないの?」  彼が体を重ねる以外の事をしてくることはなかった。小説を書いているから心情が知りたいと言いつつも、何も聞いてこない。 「大丈夫だよ。ちゃんとセックスしてる時に学習してるから。」  でも彼が小説を書いているというのは本当らしく、今も目の前でずっと執筆をしている。 「でもおじさん、ほんとに良かったの?この場所借りて。」  今彼が小説を書いているのは俺の家だ。書く場所に悩んでいるという彼に提案したら、快諾された。 「かまわないよ。好きに使って。」  正直、一人住まいにしては少し広めの部屋に住んでいるので彼が一人入ったくらいではまだまだ広い。 「そう。ありがと。」  そう笑った彼の首筋には、誰かに絞められた手形があった。 「………。」  また、彼は傷ついたのだろうか。心も体も傷ついて、ぼろぼろになって。それでもまだ愛を求めることをやめられないのだろう。彼は、愛を受けられないが、愛を誰よりも求めている。 「………。」  一度、彼の作品を読ませてもらったことがある。過去に書いたというその作品は、温かい家族の日常が描かれていた。きっと、あれは彼の中にある願いなのだろう。 「…おじさん、そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしい。」  ふと、彼が振り返ってそう言う。 「ああ、ごめんね。」  そんな彼に、視線を床の方へと落とす。 「………。」  願わくば、彼に愛を与えてくれる人が現れますように。

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