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track1.アイドルデュオ『Mal Enfant』誕生

 鬼は横たわったままの翼に近寄ると、脇腹をガスッと蹴った。  その衝撃で、翼の意識が浮上する。 「うっ……」 「オラ、いつまでも寝てんじゃねーぞ」  鬼はそう言いながら、翼のベルトを外して下半身を顕わにした。  夜の風が翼の肌を刺し、薄ぼんやりとしていた思考がようやくハッキリとした。 「なっ!?」  目を開けると巨大な男がいそいそとパンツを取り払い、下半身を丸出しにしようとしているのだ。  驚かない方がおかしいというもの。 「やめろっ!!」  愉快そうに嗤う鬼の目を見て、翼はゾクリと体を震わせた。 ――こいつ、俺を犯す気だ。  鬼の目に浮かぶ、欲望の炎。  それは翼自身覚えのある揺らめきだった。  しかし彼は犯す側で、犯されたことなど一度もない。童貞はとっくの昔に捨てたが、後ろの孔は処女なのだ。  処女を誰かに捧げる気はないし、後ろは清いままで生涯を終えたい。  しかし鬼にその気はなさそうだ。  なんとしてでも犯してやる……そんな気迫が伝わってくる。  逃げなければヤられる。確実に。  こんな知らないオッサンの雌にされるなんて――。 「やめてくれ! なんでもするから、助けてっ……」  ようやく出たのは情けない哀願。高飛車な翼からは考えられない言葉である。  しかし鬼はフンスと鼻で嗤うと、ついに翼のパンツを全て取り去り、ポイッと捨てた。  裏路地にバサリと乾いた音が響く。  丸出しになった翼の陰茎、鬼はギュッと握りしめた。  あまりの力強さに、そのまま潰されるのではという恐怖が翼を襲う。 「ひぃっ、やめろぉっ!!」 「うるせぇな。テメェらはそう言われて、やめたことあんのかよ」  そんなこと、一度たりともなかった。  相手にやめて許してと乞われても、駿斗(しゅんと)と共に笑い飛ばして、自分たちの欲望を叶えてきた。  黙り込んだ翼に、鬼が追い打ちをかける。 「天罰覿面って知ってっか? (わり)ぃことやってきた奴にはな、それ相応の報いっつーのが待ってんだよ」  今から俺さまが、天に変わって罰をくれてやる……鬼はそう言ってニタリと嗤った。  その笑みを見た翼を、例えようもない恐怖が襲う。 「なっ、なんでお前から罰を受けなきゃならないんだよ!」 「それはな、善因善果……つまり、よい行いをした奴にはご褒美が待っているってことさ」 「はっ?」 「俺はさっき、あのヒョロリーマンをお前らの悪の手から救ってやった。つまり俺はいいことをしたってことだろ? だからご褒美ぐれぇ貰わねぇと、割が合わねぇじゃねぇか」 「ご褒美が俺のケツって、おかしすぎるだろ!?」  しかしその問いに、鬼が答えることはなかった。  握ったままの陰茎に顔を寄せると、パクリと一飲みにしたのだ。 「……!?」  火傷しそうなほど熱い口内。鬼の舌に陰茎を擦られて、翼の竿がムクムクと頭をもたげる。  完全に勃ち上がるまで、さほど時間はかからなかった。 「ほぉ……さっきのニイチャンより(ほせ)ぇが、長さは充分じゃねぇか」  ようやく陰茎から口を離した鬼が、楽しげに呟く。  その声は心なしか、少しだけ上擦っているように聞こえる。  鬼が、自分のベルトに手を掛けた。カチャカチャと鳴る金属音に、翼の血の気が引いていく。 「ちょっ、マジやめっ……」  逃げようとする翼を、鬼が押さえ込む。  外したばかりのベルトを翼の手首に巻き付けて固定すると、腹の上にドッカと腰を落とす。鬼の巨体にのしかかられたうえ、ベルトで固定された手を片手で押さえつけられているので、身を捩っても全く身動きが取れない。  鬼は翼が大人しくなったのを見ると、器用にズボンを脱ぎ出した。  股間にそそり立つビッグマグナムが、翼の眼前に晒される。  こんなものを挿れられたら、確実に尻が裂ける……!!  翼の恐怖が最高潮に達した。 「ひぃぃぃぃ! やめっ、やめてくれっ!!」 「ったく、ちったぁ大人しくしてろ」  すぐ脇に置いてあるバッグに手を伸ばし、小さな小袋のような物を取り出した。携帯用のローションである。  鬼はそれを一気に開けると、手のひらに全てぶちまけた。  アレを使って尻を解してたあと挿入することは、これまで女性しか相手をしてこなかった翼でも、知識として知っていた。  知ってはいたが、まさか自分が体験することになるなんて……翼はギュッと目を瞑って奥歯を噛みしめた。  しかし。  ヌチョヌチョと淫らな水音はするものの、どこも触られている形跡はない。 「……?」  訝しく思いソッと片目を開けた翼は、衝撃的な光景に言葉を失った。  鬼が、自らのシャツを口に咥えながら、後ろに手を回してをしているではないか。  腕の動きに合わせて、ニチニチと粘着質な音がする。  鬼の背後に座り込んだ駿斗が、目を最大限に見開いて凝視しているのが見えた。 「ま、さか……」  さすがの翼にも、鬼が何をしているのかわかってしまった。  鬼は、自分のケツ穴に、指を突っ込んでいるのだ。  そうと理解した翼の混乱は酷いものだったが、解している姿を目の前でまざまざと見せつけられた駿斗の気持ちたるや……。 「挿れられると思ったか? そいつぁ悪かったな。俺は根っからのネコなんでなぁ」 「ネコ?」  ノンケの翼には、鬼の言葉が理解できない。 「つまり、こういうことよ」  後孔をほぐし終えた鬼は翼の陰茎に手を添えて、自らの後孔にピタリと押し当てた。 「俺はこれから、お前に喰われるってわけだ」  次の瞬間、鬼はズドンと腰を落として、翼の陰茎を一気に飲み込んだ。 「――っ!!」  もう、言葉にならない。  たしかな熱を持った肉が、翼の陰茎をギチギチと絡みつく。  女の膣とは違う、痛いほどの締め付けに「グゥッ」と呻き声が漏れた。 「チッ、やっぱり解しが足りなかったか」  鬼もどうやらキツいようで、眉間に皺を寄せながらフーフーと息を吐いたままピクリとも動かない。  一方の翼も混乱のあまり、指先一本動かすことができず硬直するばかり。  ちなみに駿斗はすでに考えることをやめている。  なんとも言えない空気が裏路地に流れる。  程なくして鬼がフゥ……と安堵にも似た息を吐いた。 「そろそろ馴染んだか」  呟くと同時に、ゆっくりと腰を上げる。  徐々に姿を現す、ローションに濡れた陰茎。  やっていることはただの騎乗位だ。そんなものは何度も経験してきた。  しかし巨大な鬼のケツから出てくる自分の陰茎が、今まで見た中で一番淫靡で、一番艶めかしく見えて……。  翼の胸はドクドクと早鐘を打ち、未だ鬼のナカに残ったままの陰茎がビクリと跳ねた。 「おっ、どうした。チンポがビクビクしてんぞ、おい。……感じてんのか?」 「違っ……」  しかし体は正直だ。  挿入の痛みで萎れかけた陰茎があっという間に回復したどころか、先ほどよりも膨張して硬度もさらに増している。 「オッサンのケツマンコで、ボクたん感じちゃったんでちゅかー」  挑発するような発言にも、歯向かうことができない。なぜなら鬼の言うとおり、翼はこれまでにないほどの快感を得ていたからだ。 「ハッ、他愛もねぇガキめ。いいぜ、感じてろよ。極楽を見せてやっから」  鬼は一度引き上げた腰を再びズドンと落とし、そのまま激しい抽送を始めた。  二人の結合部からパンパンと肉を叩きつける音に混じり、ブチュグチュと激しい水音が絶え間なく聞こえて来る。  ローションが愛液の役目を果たし、鬼の卑肉は膣そのもの……いや、それ以上の快楽を翼に与える。  引き抜くたびに捲れ上がり、それでもなお食いつこうとする肛門はあり得ないほどエロティックで、翼はあっという間に高みに登りつめる。 「ふぐぅっ……く、そ……なんでだよぉ……」 「イキそうなのか? だらしねぇ、もっと俺を楽しませろよ」  抽送の速度がさらに増す。 「あっ、やめろっ、それ以上はぁっ!!」  いくら気持ちよくても、男のケツでイキたくない!  翼は必死だった。  しかしそれを聞いてくれるような鬼ではない。 「我慢すんなよ、気持ちいいんだろ? 俺のケツマンコが」  射精を促すように蠕動するオマンコに、翼の我慢が限界を迎えた。 「んあぁっ……!」  ブルブルと体が震えた次の瞬間、ザーメンを鬼の最奥に吐き出したのだった。  二度三度、痙攣する陰茎。陰嚢に詰まっていたザーメンが全て絞り取られた……そんな感覚に陥る。  何か大事なものを失った気分でいっぱいの翼。  そんな彼に鬼は舌打ちして 「たったあれしきのことで、だらしねぇやつだ。この早漏ヤロウが」  と口汚く罵った。 「早漏じゃ……」 「違うとは言わせねぇぞ。速攻で出しやがって。おかげで全然満足できなかったじゃねーか」  見るとたしかに鬼のマグナムは、まだビッグなままだ。  萎えることを知らないかのような肉棒に、翼の顔色が変わる。 「仕方ねぇなぁ……」  そう言うと鬼は腰を上げて翼の陰茎を引き抜いた。栓を失った後孔から、翼のザーメンがゴポリと溢れ出るのを、駿斗は呆然と眺めた。  ゴクリ、と無意識に喉が鳴る。 「まぁ今日はもう一本あることだしな」  鬼がゆっくりと振り返り、駿斗に狙いを定める。 「それで勘弁してやるよ」  下半身を剥き出しにして迫りくる鬼。  金縛りにあったかのように、固まったまま動けない駿斗。  そして。 「あーーーーーっ!!」  夜の闇に、男の悲鳴が消えていった。 **********  路地裏に、ゴソゴソと蠢く男の影。  すっかり満足し切って上機嫌の鬼の姿だった。その傍らには屍と化した翼と駿斗も。  二人は結局三回ずつ搾り取られ、起き上がることもできない状態だ。 「今日はこれくらいで勘弁してやらぁ。それよりお前たち」  鬼は翼と駿斗の顎を無理やり掴んで上を向かせると、二人の顔をジロジロと眺めた。 「……んだよ」  喘ぎすぎ、枯れた声で翼が呟く。 「お前ら、なかなかいい(ツラ)してんじゃねーか。うちの事務所入れや」 「はぁっ!?」 「そうと決まりゃあ早速契約だ」  動けない二人を軽々と担ぎ、鬼は裏路地を後にした。 「いやだっ! 離せっ!!」  鬼の言う事務所とは恐らく893の……そう考えた二人は力の限り暴れたが、三回も搾り取られたため足腰が思うように動かない。呆気なく裏路地から程近い雑居ビルに連れ込まれてしまった。 「おぅ、今戻ったぞ」  鬼が声をかけると、中から眼鏡をかけたスーツ姿の中年男が顔を出した。 「お帰り、社長…………お客さま?」 「あぁ、うちの看板商品だ」 「はぁっ!?」 「俺らにウリさせる気かよ!」 「何勘違いしてんだ? お前ら、アイドルやれや」 「はああっ!?」 「アイドルゥ!?」  突然飛び出したワードに、翼も駿斗も開いた口が塞がらない。  鬼の正体は、ムーンサルトプロモーションという小さな芸能事務所の社長だったのだ。 「岩崎(すなお)だ」 「すなお……」 「すなお……」 「なんだテメェら。人の名前に文句あんのか?」  全力で首を振って否定する二人。 「それで僕は佐々木祐星(ゆうせい)。マネージャーをしてます。よろしくね」 「てか、よろしくされてもよぉ……」 「俺らやるなんて一言も」 「あぁん? うちの事務所に入らねぇって言うのかよ」  鬼、もとい岩崎に凄まれて、ピャッと肩を竦める二人。お仕置きの効果は、よっぽどあったようだ。 「つーかなんで芸能事務所の社長がこんなおっかねぇんだよ」 「見た目も行動もヤクザじゃねーか」  ブツブツと文句が止まらない。 「あぁ、うちの社長、元暴走族の総長だからね」 「総長……」  だからあの強さ、あの迫力……なるほど、納得である。 「なんで総長が芸能事務所なんか」 「そりゃお前」  岩崎は胸元のポケットからシガレットケースを取り出すと、タバコに火をつけ肺いっぱいに吸い込んだ。  少し乾いた香りの煙を吐き出しながら 「芸能人を喰いまくれるからに決まってんだろ?」  悪びれもなくそう呟いた。 「芸能人を」 「喰いまくれる……?」 「おうよ。普通だったら絶対手の届かないアイドルや俳優と合法的に近付けて、しかも喰ってくって喰いまくれるんだ。これほどオイシイ仕事はねーだろうよ。お前ら根性はともかく面は抜群にいいし、タッパもある。体もそこそこ絞まって、しかもいい声で啼く」  さっき路地裏で散々喘がされた二人は、苦虫を噛み潰したような顔をする。 「アイドルの素質あるぜ。どうだ、街のチンピラなんてケチなこたぁやめて、芸能人になってみねぇか?」  売れたら芸能人食い放題だ……悪魔の囁きにも似たその言葉が二人の心を鷲掴み、気付けば契約書にサインをしていた翼と駿斗。  (のち)に伝説のスーパーアイドルと称されるMal Enfantは、こうして誕生したのであった。

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