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俺の恋人は素っ気ない④/蓮二のぼやき再び

 毎回俺は、待ちくたびれて寝てればいいのに……と小さな期待をしながらドアを開ける。でもそんな期待を裏切るように、目に飛び込んでくるのは欲情しきった智の雄の顔。  セックスは嫌いじゃない──  何度も言うが、嫌いじゃない。智とする行為の時間が長すぎるから俺は嫌なんだ。 「ねえそれ、狙ってる? すごくエッチ」  俺はわざと智のTシャツを着て部屋に来た。Tシャツの下はもちろん下着だけ。  狙ってるに決まってるだろ。少しでも智を興奮させて事を早く終わらせるために、俺は積極的に行為に誘う。興奮した智に押し倒され、狙い通りに性急に俺の体を弄ってくるのをジッと見つめる。優しい眼差しから急に鋭い獣のように変わっていく智の瞳に毎回ドキッと胸が高鳴った。  それでも結局俺がいくら頑張ってみたところで思惑通りにはいかず、智に押されてこれでもかというくらいにぐずぐずにされてしまうんだ。 「や……だ、あっ……智、あっ……ん、んんっ……もう、やだ……」 「ん、いいよ……イッて、蓮二さん……ほら、ここでしょ? 気持ちい? んんっ、あぁ……気持ちいいよ……もっと乱れて……」  熱く滾った智のペニスがいつまでも萎えることなく、俺の中で何度も体位を変え執拗に攻めたてる。何度イかされたのだろう。疲れ切り、もうどこもかしこも力が入らない俺は智にされるがまま、また今日も情けなく喘ぎ泣くことしかできなかった。 「ああ……蓮二さん、好き……可愛い……気持ちいい? また泣いちゃったね」  智は満足そうに俺の頬に手を這わせ、優しく涙を拭ってくれた。その温かい手に、俺は今日も縋るように頬を寄せる。くったりと力の入らない俺の体を智は愛おしそうに労ってくれる。  毎回同じ……愛を確かめ合う行為。愛情表現。  この行為に俺は安心をもらっているはずなのに、最中必ず頭を過るのは仄暗い負の感情だった──  付き合って何年経とうがこの感情は俺の中から消えることはない。  智と体を交え、愛されるのは嫌いじゃない。お互い快楽だけを求め合い、これでもかと言うほどの欲に塗れる。  智は俺のいいところを全て把握し、いくら嫌だと言っても執拗にそこを攻め続け、俺が泣くまでそれをやめてくれない。きっと智はこの俺の涙を「綺麗なもの」として見ているのだろう。俺が泣いて蕩けていくのを、いつも満足そうな顔をして見つめてくるんだ。  俺だって智と同じで気持ちのいいことは好きだ。  攻められ感情に流され涙を零す。それは自然と出てしまうものと、快感に抗えず出てしまう涙。  あとそれとは別の、どうやっても拭えない「嫉妬」と「独占欲」からくる涙。    何が嫌だって──  智がセックスに慣れているのがわかるのが堪らなく嫌なんだ。  セックスにかける時間が長ければ長いほど、この嫌な感情が顔を出す。  俺は智しか知らないから……  智が以前はどんな恋愛をしていたか、俺は知らない。  出会ってすぐに熱烈にアプローチをされた。智は俺に対して「一目惚れだ」と言っていたけど、それは俺も同じだった。  初めて好きになった人。  初めて触れ合い、キスを交わした。  初めて愛し愛され、大事大事にされてきた。  そんな最愛の智が、俺の知らない時を俺の知らない人間と同じように過ごしていたかと思うと、嫉妬で胸が張り裂けそうになるんだ。  智は俺のことを誤解している。  まさか俺がなにもかも初めてだったなんて夢にも思っていない。なんなら俺は「モテる男」で恋愛経験が豊富だとすら思っている。  俺のことが好きだから、その大きな愛を誰にも負けないよう俺に伝えようと一生懸命になってくれる。  智の愛は真っ直ぐで素直だ。そう、偽りだらけの俺とは真逆に。  失うことがたまらなく怖いのに、俺は素直になることができない。心とは裏腹な態度をとってしまう。優しい智に甘えてわがままに振る舞ってしまう俺を、いつか見限り離れていってしまうのではないかと不安になる。  セックスをするたび、そんな思いが顔を出す。本当は行為の時間だけの問題じゃなく、こんな自分の嫌な部分を思い知るから嫌なんだ。 「蓮二さん……好き?」 「……うん、好き」  こうやって事後優しく問われれば、俺も少しは素直になれた。智は「幸せだ」と囁きながら甲斐甲斐しく俺の体を綺麗にし、狭いベッドで抱き合って眠る。いつも俺はそんな智に心の中で「ありがとう」と言いながら、優しい腕の中で眠りにつく。  こうして今日も俺の思惑通りにはいかず、睡眠不足のまま次の日を迎えた──

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