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二人の「これから」⑥/specialな日々を……
二軒目に入った店で噂の慎太郎に遭遇した。
蓮二さんや美典から聞いていた通りの軽そうな男。酔っているせいかやたらと蓮二さんにくっついて喋り、見ていて正直イライラした。それでも蓮二さんが躊躇いながらも美典のことを彼女ではなく友人なのだと訂正し、俺と美典は「大切な人」と紹介してくれたことに、思わず泣いてしまいそうになる程嬉しく思った。蓮二さんは慎太郎には俺との関係を知られたくないと思っていたはず。以前ならきっとただの友達だと紹介していただろう。それを今の蓮二さんの精一杯の言葉で俺のことを「大切な人」と紹介してくれたんだ。そんなの嬉しくないはずがない。
帰り道中、何故か蓮二さんは口数が少なかった。
先程偶然会った慎太郎の件だって、多少はヤキモキして苛ついてたかもしれないけど、別に俺は怒ってないし気分を害したわけじゃない。むしろ嬉しくて泣きそうになっていたなんて恥ずかしくて言えないほどだったのに。蓮二さんがそんな気にする必要はないのに、何度も「ごめんな」と俺に謝り元気がない理由がわからなかった──
「俺は智みたいに気にせずに恋人のことを「恋人」だと紹介することができなかった。ごめんな……あれが俺の精一杯なんだよ。でも智には笑っていてほしいしずっと一緒にいたいと思ってる」
帰宅し、家に入った途端に蓮二さんはそう言った。
「は? 何言ってんの? わかってるよ? 蓮二さん、頑張って俺のこと「大切な人」って紹介してくれて、俺泣きそうになったもん。嬉しかったよ、ありがとうね」
やっぱり蓮二さんは気にしていたんだ。俺は不安そうな蓮二さんに大丈夫だと言い笑う。そして蓮二さんの言動がいかに嬉しかったかを伝えた。蓮二さんが俺なんかと付き合ってくれてることに感謝してるのだと、わかって欲しくて一生懸命伝えていると、「ちょっと待って」と制された。
「そのことなんだけど、智は俺のことをいつもいい男だって褒めてくれるけどさ……全然そんなんじゃないんだよ。俺、智に言えてないこと……まだあるんだ」
そう言って蓮二さんが「嫌わないで……」と真っ赤になって言った言葉に、俺は驚きで一瞬思考が停止した。
蓮二さんが初めて好きになったのも、初めて触れ合ったのも、全部全部俺だけなのだと恥ずかしそうに教えてくれた。
へ? 嫌う? なんでよ? 嘘だろ? 経験豊富でモテ男だと思っていた蓮二さんが、俺としか付き合ったことがなかっただなんて!
「マジか! 蓮二さん! それほんと?」
「ああ……今まで黙っててごめん」
泣きそうな顔をして謝る蓮二さんが愛おしくて叫ばずにはいられない。
いやいや、それだって今まで俺が勝手に思い込んでただけの話で、それこそ蓮二さんが謝ることじゃない。
「ねえ! 近いうちに……いや、明日! 明日にでも一緒に指輪買いに行こ! あ、店で二人で選ぶのに抵抗あるならネットで買ってもいいしさ、ね? そうしよ? 蓮二さん、俺と結婚してください!」
「……は? は?! 結婚って……なんで急にそうなるんだ? 唐突だな。そもそも結婚なんてできねえだろ……」
「わかってるよ、結婚はできないかもだけどさ、わからないじゃん。でも俺は蓮二さんと一生を誓い合いたいって思ったの! 本当はさっきの店みたいなところで、蓮二さんが言ったようにいいムードでプロポーズすれば良かったんだろうけどさ、俺は今、今! 猛烈に結婚したいって思ったんだもん、ね? いいでしょ?」
「ムードも何もあったもんじゃねえな。わがままかよ……」
蓮二さんの言う通り、俺のわがままななのかもしれない。
今まで何度、俺は蓮二さんの過去に嫉妬してきたのだろう。でも蓮二さんにとって俺が全てだったんだ。蓮二さんの初めてが全部が全部俺だけなのだとわかったら、もう他の奴に取られたくないって猛烈に思ってしまった。責任を取る、じゃないけど、蓮二さんを誰にも渡したくない、死ぬまで俺だけのものにしていたい。そう思ってしまった。
そう、それが独占欲丸出しな俺の本音──
満更でもなさそうな蓮二さんに、興奮しきりにキスをする。俺は世界一幸せなんだと声をあげたら「うるさい!」と怒られた。
数日後「指輪ははめないぞ」と言う蓮二さんと一緒にペアリングを買いに行き、その足で役所に行って「婚姻届」を手に入れた。婚姻届は提出することはできないけど、二人で記名し部屋に大切に保管するんだ。馬鹿げているかもしれないけど、二人にとっては目に見える大切な「誓い」なのだ。
これからもスペシャルで最高な日々を、ずっと二人で過ごしていく。
そう二人でひっそりと誓い合った──
end
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