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第1話

「むしろもう、いっそ結婚したほうがええと思わん?」  昼下がり、壊れたブラインド、狭い芳村和樹探偵事務所の一室。部屋のスケールにどうしても合ってない、でかくておんぼろなカウチで寝そべっていたおれは身を起こした。読みかけの雑誌が滑り落ちる。 「は?」  わけの分からないことを言い出した芳村和樹ご本人は、事務所の一番奥のデスクに座って、何かのアニメのキャラみたいに、指を組んで真剣な顔をしていた。もう中年の歳に差し掛かるはずなのに、なまじ美形なせいでヘンに様になるから腹立たしい。美中年、許すまじ。 「やからな、もういっそ結婚したほうが」 「すみません、何を言ってるのか意味不明なんですけど、誰と誰が結婚するんですか」 「小生とYOU」  おれは黒ぶちの眼鏡のフレームの位置を直しながら、もう一度訊いた。 「すみません、何語ですか? YOUって誰ですか」 「小生の目の前のソファに座っとる、稲田肇助手のことやけど?」  稲田肇はいかにもおれのことだ。つまりおれと目の前の芳村探偵が結婚する? わあ、めでたい。 「って、寝言は寝て言え」  おれは落ちた雑誌を拾い上げ、芳村探偵の顔面めがけて投げつけた。不意打ちだったのだろう、いい音がして、芳村和樹は後ろへひっくり返った。ざまあみさらせ。

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