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地味な俺と不良高校最強のド直球男の告白①

「お前、俺の女になれ。」真っすぐ俺を見つめて目の前の男は言った。 玉をとれとでも言ってんのか。しかし、そんな冗談を言える感じではない。 思えば朝から厄日だった。身長155㎝に童顔の俺は高校1年生になっても未だ中学生や小学生に間違われることも多い。地味な黒髪で顔もごく普通。成績も可もなく不可もなく、運動はあまり得意でない。地味でおとなしくて喋らないというのがクラスでの俺の立ち位置である。しかし、今日は何を思ったか、来月に控える文化祭で何をするか、クラスでも目立つ奴らが案を出し合っていたところ、女装はどうかという話になり、そしたら体格的に俺の名前が出され、面白がったクラスメイト達が俺の断る暇も与えずにメイクをし、ウィッグをかぶせ、どこから用意をしたのか女子の制服を着せられた。あまりの化けっぷりにみんなから写真を撮られ、今日1日これでいなよと命令された。多分人生で一番注目された日だったであろう。頼まれたら断れない、ことなかれ主義の俺がクラスの陽キャ達に反論できるはずもなく、大変不本意ながらこうして1日を過ごしていたのである。 ちなみに、俺の通う日向学園はそこそこ偏差値が高い私立の高校であり、校則が比較的ゆるい。俺の女装を見ても佐藤今日は可愛いなと先生に声をかけられるくらいにはゆるゆるの学園である。そういった高校であるため、派手な格好の奴らも少なくない。 「そろそろ、制服を返して欲しいのですが。」俺はクラス一のギャルこと佐々木さんのご機嫌をそこねないように低姿勢でいった。 「えー。せっかく可愛くしたから無理。大体化粧したまま男子の制服着るつもり?めちゃくちゃちぐはぐだけど。」佐々木さんがハスキーな声で俺に言う。 「いや。化粧も、もう落とそうと思って。」俺が何気なく言うと周りの女子達が無責任なことを次々と言い出した。 「最低。せっかくユカが一生懸命化粧したのに。」 「そうそう。ここまで可愛くしてもらっといて。」 俺は頼んでないんだけどなと口に出して言えたらどんなに良いかと思ったが、そんな勇気もないので俺は苦笑いするしかない。 ユカこと佐々木さんがそんな俺に追い打ちをかけた。 「メイク落としがないと化粧落とせないよ?アタシ、メイク落としもってないし。」 「えっ。水で落ちないんですか?それは、俺、どうしたらいいのでしょうか。」俺が動揺して言う。 「家に帰って化粧落とすしかないね。流石に家にはあるでしょ。」何気なく言う佐々木さんに俺はおそるおそる言う。 「そしたら俺このまま家に帰ることになるんですが。しかも電車で。」 「可愛いからいいじゃん。あんたそのほうが良いよ。」ばっさり言う佐々木さんに俺はもう何も言い返せなかった。 そうして、明日着るために俺の制服だけ返してもらい、俺は女装のまま家に帰ることになったのだ。このまま帰ったら間違いなく大学生の姉ちゃんに腹をかかえて笑われるだろう。 嫌なことというのは続くものらしい。 よりによってナンパにからまれたのだ。 「君可愛いね。俺たちとお茶しない?」そう声をかけてきたのは俺と同じ高校生だった。 同じ高校生なのに凄いな、俺には絶対真似できないなどと感心している場合ではない。 「いや、急いでいるので。」声でばれるかなと思ったけど、声変わりをしてもやや声がひくくなっただけの俺の声にあまり違和感はなかったらしい。 「いいじゃん。いいじゃん。」ともう一人に腕を引かれる。どうやらあっさり引き下がる気はないようだ。 声をかけてきた高校生は3人。3人とも羨ましいことに身長は俺より10㎝は高いだろう。制服はここ周辺でもあまり評判がよろしくない藤ヶ丘高校の学ランである。3人とも髪の明るさやピアスなどのアクセサリー、制服の着崩しからいかにもヤンキーですと主張している。 さて、どうしたものか。ナンパなどしたこともされたこともないため、このままついていったほうが相手を怒らせずに済むのだろうか。実は俺、男ですと明かしたほうが早いのか。それはそれでカツアゲでもされそうな気がする。生憎俺は喧嘩なんてしたことないし腕っぷしの差は一目瞭然であろう。 このままついて言ってお茶でもしたほうがマシかなと考えていると通りかかった一人の男がこちらを睨みつけて言った。 「てめえら何してんだ。」 ドスの効いた声でこちらに声をかけてきた男は、黒髪をオールバックにしており、金色のカチューシャをつけ、大層顔立ちが整っていた。 そして、迫力というか存在感というかオーラがすごい。芸能人のような華やかなオーラという感じではなく、なんか凄くてヤバそうな奴という感じが滲みでている。何よりその目力が半端じゃない。俺より20㎝は背が高いであろう。とんでもない高校生がいるもんだとまじまじとその男をみていると、「すみません。桐生さん」と言いながらヤンキー3人組がそそくさと逃げ出していった。桐生さんと呼ばれた男はさきほどの男たちと同じ藤ヶ丘高校の学ランを着ている。 「すまねえな。俺の管理が行き届いてなくて。」桐生さんは俺にすまなそうに言った。 どう考えてもあんたの責任ではないだろうと思うが、助けてもらったことには変わりない。 「すみません。ありがとうございました。」そう言ってそそくさと立ち去ろうとしたが、男の手から一筋赤い液体が滴っているのをみつけてしまった。 「あの、手から血でていますが。」俺が声をかけるが「心配ない。いつものことだ。」と返されてしまった。 いつものことだからといって止血をしないのはよくないだろう。俺は桐生さんの腕をとりハンカチで傷口を抑えた。しばらく抑えていると血は止まったようである。縫う必要はなさそうだが、傷口の大きさから普通の絆創膏では厳しいだろう。俺はそのままハンカチで傷口を覆った。 「血はとまったみたいなので大丈夫だとは思いますが、傷が結構大きいので帰ったらガーゼとか大きめの絆創膏とか貼ったほうがいいかもしれないです。」俺が顔を上げて桐生さんに声をかけると桐生さんは大きく目を見開いて驚いた表情をしている。 「ああ。」桐生さんが頷いた。 その顔がほんのり赤い気がするが、止血で強く押さえたのが痛かったのだろうか。 悪いことをしたなと思いつつもそろそろ家に帰ろうと「じゃあ失礼します。」と声をかけて立ち去ろうとした。 「お前、名前は?」桐生さんが声をかける。 「佐藤誠です。」もう会うことはないだろうと馬鹿正直に名前を教えたのが悪かったのかもしれない。 女装のまま家に帰ると姉ちゃんには大爆笑された。母さんにはあらあら可愛くしてもらってよかったわねと言われた。どこか喜んでいる様子でもあり、スマホでパシャパシャと写真を撮っていた。

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