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第1話 後宮の隅っこで

――た、助けて…… 何? 何が起こってるんだ…… 後宮の一角、柱に彫られた獅子にすがりついた僕は恐怖のあまり声も出ない。 声が出せたって何も言えないんだけどね。一介の宦官に過ぎない僕にはね。 目の前には、良い匂いのするたわわな胸がいくつも…… 薄桃色の衣の袷からは胸の谷間が見えそうで見えません。なぜか僕は今、そろいも揃って胸の大きな美人さんたちに詰め寄られています。ちびで冴えない僕よりスラッと背も高い美女軍団。ただし、言い寄られてる訳ではない! ってのだけは分かる。だってだって、襟首を絞り上げられてさ、ひんやりとした目で見下ろされてるんだもん。 「ショウ! リァンさまがお呼びです。お部屋までご足労下さいますか?」 圧がスゴい。疑問形ではあるけど、問いかけじゃありませんね。もちろん拒否権はないヤツですね。コクコクコクと頷けば、両腕を補足され前後を固められて連行される。 ああ、両手に花…… 侍女の皆さんさすがにお綺麗…… あっ……腕に柔らかいものが~ あっあっ、良い匂いするー なんて頭がむなしい逃避をしている間にも、美女軍団に両腕を掴まれ背を押されて、僕は連行されて行く。 ――ぼ、僕、何かやらかした? 目立ないように目立たないように、暮らしてるつもりなんだけど。 それともついに……バレた……のかな? 新しい皇帝が即位して2年。なぜか興味を示さぬ皇帝陛下のせいで、後宮の整備がちっとも進まない。それどころか、陛下は後宮の場所も人員も削りに削って、こぢんまりと宮殿一棟だけにしてしまった。僕はそんな閑散とした後宮の、数少ない下働きを務めている。後宮に配属されて日が浅い僕は、もっとも下っ端だから掃除や庭仕事なんかを担当している。 今現在、後宮にいらっしゃる妃はリァンさまお一人のみ。なんとお輿入れから三ヶ月の新婚さん。そのお方、正妃候補との噂も高いリァン妃の部屋に連行されている最中なのだ。 僕は5年前、父が失脚したあおりを受けて宦官になった。肉刑で去勢されて死ぬかと思ったけど、どうにか生き残った。人間ってすごいね……あんな目に遭ってもどうにか生きてるんだもの。 近しい家族は遠流になった母と妹のみ。だからもちろん、僕には何の後ろ盾もないんだよね。下働きの僕が呼びつけられる理由がますますわからない…… 何をやらかしたんだろうか? 上の空で歩くうちに、リァンさまの前に引き出されてしまう。 「お前がショウなの……? う〜ん……」 跪きうつむく僕にリァンさまの納得いきかねるといった声音。 衣擦れの音が近づいて、ふわり、と品の良い香りの風が僕の鼻をくすぐる。 ってリァンさま近い近い近いーーー! 僕の前にしゃがみ込むと、至近距離から僕を矯めつ眇めつ観察する。 ――あんまり見ないで! どうか気づきませんように…… 「うーん、ひ弱? いやいや……華奢な感じが良いのかしら?――ん……」 人目を避けたくて伸ばしている前髪をつまんで掬われる。 うゎ、のぞきこまないで下さい! 「えっ……あなた!」 グイと両頬を挟まれて顔を上げさせられる。驚きで見開いてしまった目でリァンさまと視線が合う。妃のお顔を直視するなんてもってのほか。焦って目をそらすが、心臓がまたバクバク言い出して苦しい。 ――ば、ばれた? 沈黙が痛い。 「あなた……しょーちゃん?! ショウヨウなの?」

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