1 / 8

第1話

「いいから黙ってこれにハンコ押せ、実印な」  突然、目の前に突き出されたそれは紛れもなく婚姻届だった。  しかもしっかりと俺の名前まで記名されて、後は俺の判を押すだけの用意周到さ。 「は?」  開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だ。  目の前にいるのは確かに間違いなく、中学からの犬猿の仲の梶秋人。高校、大学と同じ学び舎で学び、何故か社会人になっても同じ会社という腐れ縁。  昔から目が合えば憎まれ口を叩いてきた筈の梶が、何故俺に婚姻届を書かせようとしているのか。 「ちょっと待て。いいか、梶。俺達は確かに腐れ縁だが恋人同士ではない」 「知っている」 「それがいきなり婚姻届は時期尚早だし、そもそも男同士の婚姻は認められてない」 「知っている」  大真面目で答える梶に俺はイラッとした。  これはなんだ? 新手のドッキリか? 「なら何で婚姻届? 何かの罰ゲームでもやらされてんの?」  梶は昔から真面目な性格だ。罰ゲームやドッキリの類は好きじゃないはずだ。 「松本、俺は考えたんだ」 「おう、何をだ」 「中学、高校、大学と十年一緒だった」 「ああ、そうだな」

ともだちにシェアしよう!