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第1話
「いいから黙ってこれにハンコ押せ、実印な」
突然、目の前に突き出されたそれは紛れもなく婚姻届だった。
しかもしっかりと俺の名前まで記名されて、後は俺の判を押すだけの用意周到さ。
「は?」
開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だ。
目の前にいるのは確かに間違いなく、中学からの犬猿の仲の梶秋人。高校、大学と同じ学び舎で学び、何故か社会人になっても同じ会社という腐れ縁。
昔から目が合えば憎まれ口を叩いてきた筈の梶が、何故俺に婚姻届を書かせようとしているのか。
「ちょっと待て。いいか、梶。俺達は確かに腐れ縁だが恋人同士ではない」
「知っている」
「それがいきなり婚姻届は時期尚早だし、そもそも男同士の婚姻は認められてない」
「知っている」
大真面目で答える梶に俺はイラッとした。
これはなんだ? 新手のドッキリか?
「なら何で婚姻届? 何かの罰ゲームでもやらされてんの?」
梶は昔から真面目な性格だ。罰ゲームやドッキリの類は好きじゃないはずだ。
「松本、俺は考えたんだ」
「おう、何をだ」
「中学、高校、大学と十年一緒だった」
「ああ、そうだな」
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