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第8話

「ごめんな……。俺、自分の事ばかりで松本の気持ち、考えてなかったな……」 「ちがっ……俺っ……お前がっ……」  しゃくり上げる俺の背中を撫でて落ち着かせようとする梶の胸座を乱暴に掴んだ。  上手く言葉に出来そうにないから、行動で示す事で梶に今の俺のどうしようもない気持ちを伝えようと思った。 「松も……」  触れるか触れないか、ほんの一瞬。これで拒否反応が出たら無理だろうなっていうのもあった。  だから俺は梶に涙と鼻水でぐちゃぐちゃな色気もムードも何もないキスをした。  口唇を離すと梶がポカンとマヌケ面して固まってしまった。そんな梶から婚姻届を奪って机の引き出しから印鑑を出すと、朱肉をつけて勢いよくポンっ、と自分の名前の横に判を押した。 「はい、これでいいか?」  ポカンとしたまま頷く梶に判の押された婚姻届を手渡すと、まじまじとそれを眺めて、やがて真っ赤な顔ではにかんだ。そりゃもう、これでもかってくらい盛大に。 「それ、どうすんの?」 「……家宝にする」 「失くすなよ」 「当たり前だっ」  何だか流されてしまった感がハンパない気もするけど、意外とキスしても平気だったし何とかなるんじゃないか、なんて思ってしまった。梶なら大丈夫だって。 「で、これから俺達どうすんの?」  何せ清い交際もすっ飛ばしていきなり結婚だ。恋人期間ゼロで夫婦だ。 「そうだな、とりあえず……」  つまり、俺達は新婚さんになった訳だ。新婚だぞ、新婚。何だこの甘い言葉は。 「指輪でも買いに行こうか」  少し照れた様に言うもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。  婚姻届と言い、指輪と言い、形から入るタイプなんだな、梶は。 「望むところだ」  まるでこれから闘いにでも行くかの様に返事をすると、梶は嬉しそうに笑顔を見せた。  うん、まあ、梶が嬉しいならそれでいいか。  色々、問題は山積みな気はするけど今はこの後繰り広げられるであろう指輪購入というミッションをクリアしようではないか。 はっぴーえんど……?

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