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「――よっと。ははっ、ここ来んのなんか久々な感じだな~」
「…そうだな」
昼休み。
一緒に飯を食いたがっていた三人娘を適当に蹴散らして、俺と遼太郎の二人は、誰もこないからと前はよく使っていた、立ち入り禁止の屋上に続く階段上の踊り場へと集合していた。
……それにしても、ここ来たのほんとに久々だな。
最近色々ありすぎたせいか、全然来れてなかったし……っ、イロイロ、
「それで? わざわざここに来てまで聞きたかった秘密の質問ってなんだ、疾風?」
「っ…!!」
『色々』について思いを巡らしていたところでの遼太郎からの問いかけに、またも身体をビクつかせる俺。
そうして、グッと手汗が滲む拳を握りながら、
「っ、これは俺のダチの話なんだが――」
「えっ疾風、女子ならいざ知らずっ男のダチなんておれ以外にいたのか…!?」とかいう、遼太郎の、基本イイ奴だがたまに飛ばしてくる天然さにぶん殴りたくなった気持ちをどうにか抑えつつも。
流石に『オナニー』をしてしまったことは言えないながら、俺はここ最近の出来事……藤枝いつぐを見ると浮かんでくる不可思議な気持ちの数々について「ダチがとある女のことを考えると……」と、搔い摘んでポツポツと話していった。
すると、そんな俺の例え話を聞いたのち、遼太郎から返ってきたのは、
「――いやそれ、その疾風の友達……ただ単に相手の女の子に百二十パー『恋』してるだけじゃないのか?」
「………は? …こ、い…?」
という、謎の単語であった。
「そう、恋」
「……魚」
「それは鯉」
「……色の」
「それは濃い」
「……わざと」
「それは故意」
「……こ、い」
「恋っ、相手のこと大好きだって想うあの『恋』だろ?」
「恋、って…――はあっ恋ぃぃっ!!?」
「うおっうるさっ!? …だから、さっきからそう言ってるじゃんかよぅ」
はっ、はあっ!? こ、恋っ……恋って、お、俺がっ……俺が『藤枝いつぐ』に、恋って、
「ばっ…!? ち、違ぇよっんなワケっ……!!?」
「ん? 何でお前がそんなに必死に否定するんだ? 友達の話じゃなかったのか?」
「っ……いや、そう…だけどよ」
ドっドっドっドっ……、
心臓が飛び出すんじゃないかってほどに、激しく振動し続ける。
遼太郎から返ってきたまさかの答え――『恋』という聞きなれない単語に、俺の脳内、胃の中までもがぐるぐると回りだす感覚に陥っていく。
なんだこれ……何が一体、どうなって。
そんな俺の状況なぞ露知らず。
「でもその友達の気持ちもわかるなぁ。好きになると、相手が周りと違って見えるしなっ」
「!!」
うんうんと、頷くようにして続けた遼太郎の台詞に、俺は驚きの表情を見せる。
その口ぶりは、どう考えても――
「……オマエも、そう…なのか?」
「ん? ああっそうだな、おれもその友達と一緒だ。それに朝の話に戻るけどさ」
「? …朝って」
「おれも好きなコのこと想いながらしょっちゅうオナニーしているぞっははっ!」
「なぁっ!!? ぐっゴホっゴホっ…!! ……っ、ゴホ、おまっ…何の、カミングアウトだよっ…」
「大丈夫か疾風っ……にしても、そんなに驚くことか? 好きなコが出来たら、そういうコトしたくなるのは別におかしなことじゃないだろう?」
「!! ……そう…なのか…」
「そうそうっ、おれたち高校生男子には普通のことだって。好きなコでするオナニーは、最高に気持ちいいからなぁ…!」
「っ……」
そう言って、『好きな相手を想いながらオナニーをする』ことを恥ずかしげもなく、いつもの楽しそうな笑い声と共に告げる遼太郎を、俺はジッと見つめ続けた。
……そう、なのか? 俺は……俺のずっと抱えてきたこの気持ちは――
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