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50 -23(最終話)
そうして、そんなこんなな大混乱を巻き起こした『恋人報告会』も何とか無事に――無事、でいいんだよな…? 終了し、今の時刻は午後五時三十分。
夕焼けのオレンジ色の光に照らされながら、オレと疾風くんの二人は、帰りの道をゆっくりとしたスピードで歩いていた。
「……なんか、すげぇ色々あったな…今日」
「はは、ほんと……放課後のあの場所での体感時間実質五分くらいだった気がしてるよ、オレ…」
「…俺は、一分だった気がする…」
あれから、大石さんと上杉さんと中垣さんは、
「あーもうっこうなりゃ今日はカラオケ行って喉潰すまで歌いまくるんだからっ!! 行くわよっ奈々っ亜里沙っ!!」
「ね~パフェあるとこ行こうよ~、亜里沙なんかすっごくお腹空いたの~」
「そうね、今のうちに『いつはや』…いえ『はやいつ』? とにかく二人のイメソン見つけなくちゃだわ。すぐに行きましょうっ!」
「ねぇねぇ奈々ちゃん、いつはやって何のこと?」
「えっ、うふふ…後でたっぷり教えてあげるわよ♡」
「だーもうっどうでもいいから早く行くわよっ!!」
大石さんが先導となって、カラオケ店へ行く運びとなり。
二人を引きずるようにして大石さんがグイグイと引っ張りながら、三人はわいわいがやがやと帰っていき。
……っていうか何かもう、上杉さんがすごすぎるな…ほんと。
「……オマエの言ってた気づいてるのが麻美だけってのは、こういう意味だったんだな…遼太郎。はぁ、やっぱオマエ色々とすげぇわマジで」
「おっ、サンキューな。でも疾風にすげぇなんて言われるとか、明日は槍でも降ってきそうだなっ」
「オ、マ、エっ……」
そう、横で何やら疾風くんと東堂くんが楽しくじゃれついてる(?)中。
『迷宮ラブ×バッド!?(めいきゅうらぶばっど)』通称『らぶば』という週刊少年ホースで連載中の、ドタバタ痛快ラブコメ漫画の主人公の迷い宮タスク(まよいみやたすく)くんにアタックする六人のヒロインのうち、オレの推しであるツンデレ系の高野うき(たかのうき)ちゃんと、彼の推しである元気パワフル系の草野いおな(くさのいおな)ちゃん、どっちが最終的に『タスクくんのお嫁さん』になるかのちょっとした小競り合い(ちなみに、しょっちゅうやってる)が終わったのち。
まだ少しぐったりとしながらも、立ち上がりオレに向き合ったもっちーは、
「……でも、大事な一番の親友であるいっつんに、素敵な出逢いが訪れたことは本当にボクとしても嬉しい思いでいっぱいなんですよ。おめでとうございます、いっつん!」
「っ、もっちー……うん、ありがとう。キミにそう言ってもらえて、オレすっごく嬉しいよ!」
「でっですが、恋人ができてリア充の仲間入りを果たしたとしてもっ、ボクとはどうか変わらず遊んだり熱いオタク談議をしてくださいね…!!」
「!! ふふっもちろんだよもっちー、これからもオレをよろしくねっ!」
「っ、はいっよろしくお願いします!」
嬉しそうな優しい笑顔でオレを祝福してくれて、オレもすっごくすっごく嬉しくて幸せな気持ちになり、唯一無二の親友に出逢えて本当に良かったと、改めて思ったのだった。
――でも、そういえば。
男同士のカップルについては、こちらも予想通り
「二次で充分耐性はついてますし、愛があれば同性の壁などないも同然っ、全然偏見はないので大丈夫ですよ!」
と言ってくれたのだが、相手が今までオレと一緒に『リア充乙』としょっちゅう言っていた疾風くんだったことについて、何か思うところはないのだろうかと聞いてみると。
「いっつんの恋人が、まさかのやっ矢代くんであったのにはかなり驚いて心臓が口から飛び出そうなほどでしたし…正直矢代くんはすすすっ少し怖いというのが本音だったりもするのですがっ……でも、」
「? …でも?」
「……っ、でも…と、東堂くんのお友達なのでしたら…その、何だかんだとすごく良い人なのでしょうし…何よりいっつんが選んだ方なのですから……はいっ、安心して矢代くんにいっつんを任せられます!」
「! …もっちー…」
なんて、あの時はもっちーの友情に感激して流しちゃってたけど……帰るまでの間、妙にもっちー東堂くんの方をチラッチラ見てたような気が……? モジモジもしてたし。
それに『東堂くんのお友達でしたら』って、あれ? もっちーってもしかしてオレの知らないところで実は東堂くんと仲良かったりしてたのか…んんっ?
そうだ、東堂くんも東堂くんでオレにすごいと言った時、『さすが望月の友達だっ』って…そう言ってたな。
オレのことは『藤枝くん』なのに、もっちーのことは『望月』って呼び捨てだし。
あと、もっちーが倒れた時だって血相変えて駆けつけてくれて……何よりも。
「――…ね、疾風くん。最後帰る前に東堂くんが言ってたアレって、結局どういう意味だったのかなぁ…?」
「! …ああ、アレ…な」
大石さんたちが帰り、屋上前の踊り場から教室に戻った後。
もっちーが『イナズマプリンス!!』の最新刊が発売されるからと急いで帰っていき、東堂くんも「おっ、おれもイナプリの最新刊バイト帰りに買いにいかなきゃだな~」と言いながら、バイトに向かおうと先に教室を出ようとしたのだが。
「――あっ、そうだ」とくるりと踵を返し。
「疾風も藤枝くんもありがとなっ。改めて二人が恋人になってくれたことはめちゃくちゃ嬉しいし、そのおかげでおれもこれからますます頑張れそうな気がする! おれっこれからはガンガン攻めてくからっ!!」
「……は?」
「……へ?」
何が何だか……キッラキラな眩しすぎる爽やかスマイルと共に、謎の頑張る宣言をオレと疾風くんへと伝え、スキップでもするかのようなご機嫌満開オーラで、彼はオレたちを残し帰っていったのである。
……アレは一体、何だったのだろうか。
「――いやほんと何だったのさ東堂くんのアレはぁっ!!?」
「……アイツとは一応中学からのダチだけど…偶に何考えてるのかわかんねぇ時あんだよな、遼太郎ってよ…」
「な、なんかわかんないけど……でも、すっごく良い人なのは間違いないんだよ、ね?」
「すっごくかはわかんねーけど……まぁ、イイヤツなのは本当だ」
「じゃ、じゃあ…これでいいのかな?」
「……多分、これでいいと…思う」
何となく不透明な部分はいくつか残るものの。
何はともあれ、こうしてオレと疾風くんは、お互いの友人にしっかりと自分たちが『恋人同士』であるのだと伝えることに成功したのだった。
リア充乙、だなんて一括りにしていた自分に反省だな……と、東堂くんや他のみんなのそれぞれの一面を知れたことで、みんながとっても素敵で楽しい人たちで、案外ちょっとしたきっかけがあれば仲良くなれるかもしれない存在であったことに、心の中、驚きと喜びを同時に噛みしめ。
「……ふふっ」
「! …いつぐ、どうした?」
「ううん、ただ…」
――何よりも一番大きな一面を知ることができたのは、こうしてオレの隣を歩いている彼、『矢代疾風』くんなワケで。
「疾風くんのこと、好きになれて良かったなぁって…そう思ってさ」
「は、……っ!!??」
「へへっ、オレのこと…好きになってくれてありがとう、疾風くん」
「なっ、え、あ…」
「やっぱりオレは今日も変わらず地味男なまんまだけどさ、でもっキミにもっともっと好きになってもらえるよう、オレ自分なりにこれからも精一杯頑張るからっ…!」
「っ……そう、か…頑張れよ、応援してる」
「うんっありがとう! まずは何よりも疾風くんも好きだって言ってくれたサッカーを一生懸命頑張らなくっちゃだよね、よしっ明日から通常通り部活も再開するし、レギュラー目指して頑張るぞっ…」
「――…でっ、でもよ…!」
「……へ?」
大好きな疾風くんに、もっともっとオレを好きになってもらいたい。
それを踏まえて、まずは大好きなサッカーを上手くなれるよう頑張っていこうと、オレが気合いを入れて一歩前へ足を進めた、瞬間。
グイっと後ろから何かに引っ張られ振り向くと、そこには、オレの制服の裾をぎゅっと掴んでいる疾風くんの姿があって。
「…サッカーも、いいけど……お、俺にももっともっと一生懸命になってくれたっていいっ…んだからな、いつぐっ…」
「――…っ」
夕日に照らされ、オレンジ色に染まる道の真ん中。
そう、オレに告げた疾風くんの顔は、綺麗な茜色に染まっていた。
だからオレは――
「っ、疾風くん、こっち!!」
「えっ、いつ………んんっ!?」
「んっ、ふ……はっ、はぁ…」
「ふぁ……ん、ぁ…いつ、ぐ……ここ、外…だ」
「……ごめ、疾風くんがかわいすぎて…我慢できなかったよ…」
「っオマエ、また…」
「へへっ…でも、安心して? オレはこの先ずっとずっと、これ以上ないってくらいに疾風くんのことを一生懸命……ううん、キミを一生愛し抜くつもりなんだからさっ」
「!! ……っ、その宣言、マジで一生モンだからなっ忘れんじゃねぇぞいつぐっ…!」
「えっ、わっ……んっ、」
オレたちの他には誰もいない帰り道、疾風くんの手をグイっと掴み塀の陰へと引っ張りこんだのち、驚く彼の唇にキスを落とし。
矢代疾風くんへと、一生の愛を固く誓ったのだった。
そうして疾風くんもまた、そんなオレなりのプロポーズに、一生モンだからなっの言葉と共に、彼からの勢いのあるキスでもってオーケーの返事をしてくれたのは、言うまでもない。
「――ね、疾風くん」
「なんだ、いつぐ?」
「今週末の土曜日さ…家に誰もいなくて、それで金曜日に部活のジャージを持って帰る予定なんだけど……疾風くんは、そのジャージどうしたい?」
「っ!!? ……やっぱオマエ、ドSじゃねぇか………じゃあ俺、ジャージ来たいつぐのちんこ…フェラしたい」
「うぐっ!!? ……っ、いや…キミこそほんと相変わらずなんですけど、疾風くん…」
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