8 / 8

第8話

 ◆ ◆ ◆ 「ここ、知り合いの店だから夏の間だけ手伝っててさ。普段はフツーの会社員なんだ」  事を済ませ大人になった歩希は、睦生の頭に腕を貸しながら耳を傾ける。 「でもオレ……結構ビールこぼすし、セクハラ対応うまくできないし、挙げ句にお客さん食べちゃうし……ビアボーイ、向いてないと思ってたんだ」  そうして甘えるように、睦生の額が歩希の頬に擦り寄った。 「あの、」 「どうしたの? ちぢこまって」 「……ビアボーイじゃなくなっても、俺と会ってくれますか」  かすれた声が、懸命に絞り出される。  睦生は目を一瞬丸くしながらも、口元を笑ませた。 「それって、オレとのセックスにはまっちゃったってこと?」 「違います! ……順番、変になっちゃったけど、もっと睦生さんのこと知りたくて」  真っ直ぐに見つめられて、睦生は再びくすりと笑う。 「そうだね……童貞もらっちゃったし、オレ好みに育てていくのもいいかも」 「なっ……いや、俺が睦生さんを夢中にしてみせますよ、心まで」  生物学的ではないかもしれない、けれど。  本能はきっと知っている。この人を好きになったのだと。 完

ともだちにシェアしよう!