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第8話
◆ ◆ ◆
「ここ、知り合いの店だから夏の間だけ手伝っててさ。普段はフツーの会社員なんだ」
事を済ませ大人になった歩希は、睦生の頭に腕を貸しながら耳を傾ける。
「でもオレ……結構ビールこぼすし、セクハラ対応うまくできないし、挙げ句にお客さん食べちゃうし……ビアボーイ、向いてないと思ってたんだ」
そうして甘えるように、睦生の額が歩希の頬に擦り寄った。
「あの、」
「どうしたの? ちぢこまって」
「……ビアボーイじゃなくなっても、俺と会ってくれますか」
かすれた声が、懸命に絞り出される。
睦生は目を一瞬丸くしながらも、口元を笑ませた。
「それって、オレとのセックスにはまっちゃったってこと?」
「違います! ……順番、変になっちゃったけど、もっと睦生さんのこと知りたくて」
真っ直ぐに見つめられて、睦生は再びくすりと笑う。
「そうだね……童貞もらっちゃったし、オレ好みに育てていくのもいいかも」
「なっ……いや、俺が睦生さんを夢中にしてみせますよ、心まで」
生物学的ではないかもしれない、けれど。
本能はきっと知っている。この人を好きになったのだと。
完
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