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第8話

   イサクを迎えてくれたアダムは、鞄を背負っている姿に驚愕していた。  まずは咥えている手紙を渡す。  だが、 「……あの。ヨダレで濡れていて今開いたら破けちゃいますね、これ」 『なんだと』  ガウッ? と鳴き声が上がる。尻尾が垂れると、アダムが気を取り直し言った。 「乾かせば読めますし。ちゃんと読みますから、元気出してください」  ぽんぽんと頭を撫でられる。  イサクは顔を上げるとアダムの周りをぐるぐると回った。背中の荷物を揺らしながらとことこ歩く。  理由を悟ったアダムは背負われた鞄を前足から外してくれた。そして、中を見て再び驚愕する。 「こんなに大量の魔石を持ってきてどうしたんですか?」 『それはお前のものだ』 「……もしかして、私にくれるってことですか?」  鞄にぐいぐいと鼻を押し付けると、アダムが瞠目した。肯定するように頷く。  イサクは喜ぶアダムを想像していた。だが、予想とは外れて、目の前には困り顔のアダムだ。  どうしてなのかと首を傾げれば、「こんなに貰えません」と押し返された。  そして、イサクの前足に再び鞄を背負わせようとする。 『一度贈ったものを返されて受け取るほど、俺は甲斐性なしではない』  イサクの耳がピンと立ち上がり、尻尾が不愉快だと揺れる。そして、アダムの脇をすりぬけると家から飛び出した。  背後から呼び止める声が聞こえるが駆け抜ける。  どうせ止まったところで押し返されるに決まっている。  ──あのオメガは少々頑固なところがあるからな。  イサクは胸中で呟くとその日は寝床に戻り就寝した。

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