31 / 35

第10話

   ズキリと痛みが走り、懐かしい記憶から目をそらす。絶えず襲いかかる発情の波と痛みに、アダムは目を覚ました。  ぶれる視界に窓が映る。カーテンから覗く外はまだ明るい。どうして自分の部屋で寝ているのかと、鈍い頭で考える。 「っ、……そう、だ。……おれ」  宰相に助けられたのだと思い出す頃には、眠気で誤魔化せていた感覚までもが明確になってきた。段々とクリアになる苦しさと痛みに、アダムは唸り声をあげた。  ふーっ、ふーっ、と噛み締めた唇から苦しげな息が漏れる。  全身が熱い。頭の奥まで溶かすように、苦しくて堪らない。  誰かを呼ぼうと身じろいだ瞬間。  触れてもいないのに、性器から白濁液が迸る。 「んっ、んぅーーーッ」  絶頂感に身をふるわせて、きゅうっと足のつま先を丸めた。下着は何度も吐き出した精液と、後孔から溢れてくる陰液のせいで、ぐっしょりと濡れている。  絶頂が過ぎるのを息を詰めて耐えようとも、次から次へと淡い快楽の波は止まらない。けれど、徐々にその感覚も長くなっていった。こうなると、直接刺激を与えない限り、いつまでも燻る熱から解放されないことを知っている。  あの時はシオウが助けてくれた。  けれど今は、誰もいない。隣にシオウはいない。 「ふ、っふ、ぁ……や、だ……っぁ、ぁあ」  グズグズと泣きながら、アダムは重たい腕で自らの下肢へと手を伸ばした。くったりと力を失った性器に触れる。  くち……っ、くちゅ、くちゅっ、と淫靡な音が部屋に響いた。  こんなことしたくないのに。でも、しなかったら頭がおかしくなりそうだ。 「はあ……っ、はあっ、ん……きもち、ぃ、や、だ」  なのに気持ちよくて仕方ない。擦り上げると、えも言えぬ幸福感と快楽に惚けてしまう。このままずっと、発情してばかりの淫らな化け物になったらどうしよう。  そんな恐怖心と堕落させる快感がぶつかり合う。  宰相に頼んだ薬草が届くまで、なんとか自分だけで乗り越えなければならない。  アダムは意識が落ちる前に、薬の材料である南国の薬草を買いに行ってもらうように頼んだ。異国の薬草だから数が少ないうえに値も張るが、抑制剤は使えないのだからしのごの言っている場合じゃない。  早く、早く、早く。  この熱から開放されたい。

ともだちにシェアしよう!