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第11話

   それから、どれだけ出したのか分からなくなった頃。擦りすぎた性器はひりつく痛みを訴えて、どんなに触れても吐き出すことができなくなっていた。 「はぁ……っ、な、んで……いきた、い……っ」  頭の中には既に恐怖心など存在せず。  どうしたら気持ちよくなれるのか、そんな事ばかり考えてしまう。何度も達したアダムの体は既に疲弊していて、腕の一本さえ動かすのが困難だ。  それでも体はアルファを求めて発情し続ける。  熱に浮かされたアダムがぐちゅぐちゅに熟した後孔へと指を伸ばした時、部屋の外から話し声が聞こえた。 「薬草が、──」 「だったらどうすればいい?」 「──、全て、──。誰かが買い占めた──」 「とにかく、今すぐに、熱を──死んでしまいます」  怒声のような、腹の底から上がる唸り声と冷静な声が、言い合っている。何を話しているのかは分からない。いや、どうだっていい。  アダムはそこにいる誰かに、疼く体を鎮めてほしくてベッドから這い出た。  だが、弛緩した体には到底力など入らず、ベッドから落ちてしまう。その時に、サイドテーブルに乗せられた水入れを引っ掛けてしまい、けたたましい音を立てて床に飛び散った。 「なにごとだ!」 「はぁ……っ、はあ、っ」  焦った声と共に扉が開かれた。床に蹲ったまま、部屋に入ってきた者を見上げて泣きそうになる。  アルファの中でも最上位の匂いがした。そして、ぼんやりと霞んだ視界にアダムは幻覚を見た。  そこに居るのは眉を寄せたイサクだ。けれど、長時間ヒートに犯されていたアダムは、そこにシオウを見てしまった。 「大丈夫か」 「さわっ、るな……っ!」  慌てて抱き起こそうとするイサクの手を振り払い、アダムは目前に作り出された幻影を睨めつける。  イサクは困ったような、怪訝な表情を浮かべたが、アダムにそれを判断するだけの正常な思考はない。 「……触るぞ。いつまでもお前を水浸しの床に寝かせる訳にもいかないだろう」 「うるさいっ! うるさい、うるさいっ!」 「な、おいっ。やめろ! 落ち着け」 「……嘘つき。……おれを、むかえにくるって、いったくせに」 「……」 「ずっと、……はあ、はあ、っ、まってた、のに」  掴まれた手首から染み込む熱が、アダムの凍りついてしまった恋心を溶かす。ジリジリと照りつけるように、止まったままの感情を呼び起こす。 「……っ、ずっと、待ってた……んだ、ぞ」 「……」 「なんで……っ。……なんで、だよ」 「……すまなかった」  泣き顔なんて見せるものか。  お前が居なくたって、俺は一人でやってこれたんだ。  アダムの矜恃が涙を隠す。手負いの獣のように、睨みつけるアダムを、イサクは腕に抱きしめた。 「……悪かった。だから、暴れるな。……もう、頑張らなくていい」 「っ、う、うぅ」

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