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第1話

『兄様に触れていいのは私だけなのに、嗚呼、あなたが憎いわ。その体を早く、早く私に渡して頂戴』 目の前で泣き叫ぶ少女は自分と良く似た顔つきをしていた。 白いワンピースを身に纏い、体を寄越せと要求してくる。 その瞳は絶望と嫌悪に染まっていて、反論もできなければ、肯定もできなかった。 普通ならば何の話だ、と困惑するかもしれないが、彼女を見たのは今日が初めてではない。 物心がついた時からかなりの頻度で夢に出てくる。 自分が幼い頃から今の今まで、毎日眠そうな顔をしているのはこんな色濃い明晰夢をずっと、ずっと見ていたせいだ。 寝るのが怖かった。彼女を見るのが恐ろしかった。 まぁ、今回みたいに泣き叫んでいるのが毎日ではないが、自分に対して憎しみや怒りを感じているのはよくわかる。 彼女の記憶は、まるで夢なんかじゃあないように鮮明で、いろいろなことを話す。 まるで本当に生きた人間のようだった。 「君は、一体誰を探している?何が欲しいんだい?」 手を伸ばせば届く距離にいる彼女に問いかける。 泣き腫らした目で此方を見る彼女はまだ分からないのか、という顔をして耳が痛くなるくらい大きな声で叫んだ。 「兄様よ!貴方が居なければ彼の人は私のものだったのに!大切な大切な宝物なのに…貴方が、貴方がいたから…」 兄様__。 次男坊である自分には必然的に一人しか兄がいない。 彼女が発したその言葉に酷く目眩がした。 (おいおい、勘弁してくれよ。…夢の中でも兄さんを忘れられないなんて) 薄々とは気づいていたのだが、今ようやく確信してしまったのだ。 彼女が愛を叫ぶ相手はたった一人。 俺が十数年片思いを続けている、優しい優しい実兄のことだということを。

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