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4.恋する幼馴染

 颯希 side 「そーちゃーん!……行っちゃった」  俺の幼馴染であるそーちゃん、こと松永奏汰の運動センスは幼馴染としての贔屓目を無くしても抜群で、この地区では負け無しと言っても過言ではなくて、そんな「奏汰はきっと高校に行ったらスーパースターだな」「奏ちゃんにモテ期到来したりして」なんて和やかに話していた両親のことを思い出す。  お母さん、お父さん、そうちゃんママ、パパ、そうちゃんにモテ期到来です。  運動部の部長さんからだけど!  そうやって走り去ったそうちゃんと、それを追いかけていった部長さん達の背中を見送り、さて、どうしたものかと、思案する。  このまま帰ってしまってもいいけれど、折角なら俺もどんな部活があるか見ていこうかな……  そう思って校舎を見上げた時、美術室が視界に映った。 「……」  瞬間、ツキン、と小さく胸が痛む。  脳裏に過ったのは中学の頃、美術部に所属していた自分の姿で、これ以上記憶を掘り起こしたくなくて、その記憶を振り払うように思いっきり振り返った先で俺の目に飛び込んできた看板に俺は思わず立ち止まってしまう。 「漫画研究部?」  そう小さく呟いた言葉は誰も拾うことなく落ちていくだろうと思っていたのに 「ねぇ、君漫画やアニメは好きかい?」  突然そう呼びかけられた。  その声のした方へ視線を向ければ、眼鏡をかけた人の良さそうな笑顔を浮かべた人が、そこにいた。 「えっ、と」 「あぁ、突然ごめんね。俺2年の笹原裕(ささはら ひろ)ってんだけど、漫画研究部の部員なんだ」  そう言って、自己紹介をする先輩に俺も慌てて 「初めまして!1年の向井颯希です」  と、挨拶を返せば「うん、よろしく」とにこやかに言われた。 「それでさ、君アニメや漫画は好き?」  再度、そう問いかけてくる先輩への応えに思わず躊躇してしまう。  アニメや漫画は好きだ。  好きと言うかそれが無いと生きていけないってかもはやアニメ漫画に生かされているって言うか……そう、周りには隠しているけれど俺は結構重度なオタクなのだ。  ロボットモノからスポーツモノ、少年漫画から少女漫画、ラノベやファンタジー、どのジャンルもいけるし、むしろ自分の気に入ったものはとことん読むし、見る。  原作コミックや小説は勿論、DVDやドラマCD、グッズやフィギュアを集め、自室にはその時はまっているジャンルの祭壇を作るほどには生粋のオタクだ。  この事実を知るのは両親とそうちゃんファミリーだけである。  俺は自分で言うのもちょっと恥ずかしいっていうか、何様だよって感じなんだけども、すごくモテる。同級生からは勿論歳上のお姉様や、まぁあまり自分では認めたくないがおじ様方にも……  中学時代には他校生も入れるファンクラブなんてものも存在していたらしく(これは後から友達に聞いた。)、学園の王子とまで言われていた。  けど告白されたことは、不思議とほとんどなくて、どうやら俺は付き合いたいとか、そういう対象ではなく観賞用?らしいと言うのは同じクラスになった女の子に聞いた話だ。  話がズレた……  とにかく、そんな学園の王子様で通っている俺が(俺自身が望んでそうなっている訳では無いにしても)、重度のアニオタなんて知られたらその噂は一瞬で広まるだろうし、夢を壊してしまうかもしれない……  そう俺が心の中で思案しているのを返事に困っていると勘違いした笹原先輩が悲しそうに目を伏せながら言葉を零す。 「やっぱり漫画研究部なんて嫌だよね…ごめんね急に話しかけちゃって」 「え、あ、ちがくて……」 「実は今この部活俺を入れて3人しかいなくて…今年新入生を2人勧誘できなかったら廃部になっちゃうんだよね……」  ははは、なんて遠い目をする先輩を見て入りませんなんて断れる人はいるのだろうか、少なくとも俺はできない……!  と言うか、同じアニメ好きさんが困っているのにそれを見過ごすなんてできないよ!! 「俺、入ります!漫画研究部!」  そう思ったら俺は思わず笹原先輩の手を掴んでそう、叫んでいた。  そんな俺の言葉を聞き先程までのしおらしい態度が嘘のように元気になった先輩が俺の手を握り返しブンブン降る。 「え?ほんとに!?わー、良かった良かった!これで断られたらどうしようかと思っていたんだよね~。何にせよ一人新入部員GETぜ!!これからよろしくな、向井颯希くん!」  なんて爽やかな笑顔で言う先輩にはい!と俺は元気よく挨拶を返した。

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