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5.恋する幼馴染

 奏汰 side 「って感じでね、入る事になったんだ~」  何て、昨日俺が逃走している間に起こった出来事を丁寧に説明し終わった颯希はニコニコしながらそう言った。 「漫画研究部ねぇ……。まぁいいんじゃね、お前好きだもんな」 「うん!あ、そうちゃんも一緒に入る?」 「あー……俺はいいわ」  そう誘う颯希には悪いが  生憎、颯希と違ってあまりアニメや漫画の類を見ない俺は断る。 「そっかぁ……。あと一人俺以外の部員が見つからないと廃部なんだよね……」 「んな顔で見んなよ」 「まぁでも、こればっかりは仕方ないよね!でもそうちゃん運動部入っちゃダメだってなってるんだよね、部活動するの?」 「…とりあえずなんも入らねぇ」 「えー!高校生活は一度しかないんだよ!青春は今しかできないんだよ!!部活に入らないなんて勿体ないよ~」  俺の体に抱きつきながらそう言う颯希に 「そうは言っても俺が文化部に入ってるの想像できるか……?」  そう問いかければ一瞬の沈黙 「文化系のそうちゃん…ちょっと怖い」 「おい、怖いってなんだ怖いって」 「想像したら何か予想以上にそうちゃんじゃなくなって……」 「お前は一体どんな想像をしたんだ……」  そう呆れて言えば、えへへーなんて笑う颯希の頭を軽く小突いてやる。 「でもそうちゃんと同じ部活で青春したいな~」 「そもそも漫画研究部で青春なんてできるのか……?」 「そ、それはまぁほら!本人達の気合い?」 「んだよ、それ」  颯希の馬鹿な応えに思わず笑ってしまう。 「だって、何かを始めるならそうちゃんと一緒がいいんだもん」  その言葉に思わず心臓が跳ねる。  勘違いするな、俺。  いつもの他意の無い言葉だ。  そう自分に言い聞かせて、 「うっせ、ばーか。」  と、軽くデコピンをしてやった。 ■□■ 「颯希帰ろうぜ」 「あ、ごめん。今日から漫研の仮入部期間なんだ……」 そう眉を下げて言う颯希にそうか、と応えようとした俺の言葉は 「颯希~」 と、呼ぶ声に遮られた。 「誰だあいつ」 「昨日言ってた俺を部活勧誘した漫研の先輩だよ」 「ふーん」 そんな会話をしていればその先輩とやらが、ずかずかと教室に入ってきた。 「仮入部1日目だからな!迎えに来たぞ~」 そう言ってナチュラルに颯希の頭をくしゃっと撫でるもんだからつい、イラッとしてしまい、 「何か馴れ馴れしくねぇか」 なんて苦々し気な言葉が口から零れた。 「あ、はは~」 「ん?もしかして彼が昨日言ってた運動部の主将と追いかけっこしていた幼馴染?」 「追いかけっこはしてねぇっす……」 「はい!そうちゃ、じゃなくて彼が俺の幼馴染の松永奏汰君です」 「幼馴染、ねぇ……」 そう言いながら、俺のことをジロジロ見てくるこの先輩の、視線が居心地悪くて、けれど目を逸らしたら何だか負けた気分になる!なんて、変な意識を抱いてしまう。 そんな俺を見て、ふっと笑ったあとに 「わっ、」 ぐいっと颯希の肩を抱いて 「じゃあ颯希は貰ってくね、タダの幼馴染君」 なんて、幼馴染を強調して言うもんだから、俺は先輩だとか、そういう事は、頭の隅に追いやられて思わずギンっと目の前の男を睨みつけていた。 そんな俺と、先輩のただならぬ空気を察知したのか「ほ、ほら、先輩行きますよー。そうちゃん、じゃあまた明日!」と言って、颯希は足早に、教室から出ていった。 一人ポツン、と残された教室に俺の苦々し気な舌打ちだけが静かに響いた。

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