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6.恋する幼馴染

 奏汰 side  それから仮入部の期間。  あの先輩とやらは毎日、毎日律儀に颯希を迎えに来ては、俺に対して余裕の笑みを浮かべながら颯希に抱きついたり、頭を撫でたり、肩を組んだり、とにかくベタベタ、ベタベタしやがる。  その度にイライラする俺に「そうちゃん、何だか最近ピリピリしてるね」なんて、心配そうに言う颯希に「お前があの先輩にベタベタされるのみて嫉妬してんだよ!!」なんて、言葉は心の中だけで叫んで「別に」と、しか返せない自分に自分で、俺はどっかの女優か!とツッコミをこれまた心の中だけでいれる。  そして仮入部期間最終日。 「さっつき~!」 「うわぁ!……もう、裕先輩。急に抱きついたら危ないじゃないですか~」 「いやぁ、颯希の反応が可愛くてつい、ね」 「かわっ!?失礼な!俺はこれでも女の子達からはカッコイイって言われることの方が多いんですよ~」 「そうやって、頬を膨らませて反論するお前が可愛いんだよ~」 「ちょ、髪のセットが崩れるんでわしゃわしゃしないで下さい!」 「はっはっは~」  いつにも増して颯希を構い倒し、あまつさえ、俺が普段思っていても言えない「可愛い。」なんて、言葉をさらっと言って述べた目の前の先輩に、とうとう俺の中で燻っていた気持ちに火がついた。 「じゃあ部室行くか~」 「はーい!って、あ……俺今日職員室に用事があったんだった。裕先輩先に行っててください!」 「お、何だ~。怒られるようなことしたのか?」 「違います!今日、日直なんで日誌持ってかなきゃなんです~」 「なるほど」 「てなわけで裕先輩、また後で!そうちゃんはまた明日~」  そう言ってパタパタと教室を出ていった颯希の背中を見送り 「さーて、俺も部室行くか」  何ていう先輩に 「ちょっと話あるんすけどいいっすか?」  と、呼び止めた。 「えー何、その凶悪な顔。俺シメられんの~?」  そう言いつつ、口元には笑が浮かんでいるこの先輩に、更にイラッとしてしまうが、一つ深呼吸をし、気持ちを落ち着け、なるべく声を荒げないよう言葉を紡ぐ。 「あんた何のつもりか知らねぇが颯希にちょっかい出すの止めて貰えませんか」  ……紡いだつもりだったんだが、自分で思っていたより俺の声は怒気を孕んでいた。 「別にちょっかいなんてかけてないよ?」 「抱きついたり、頭撫でたりして、これのどこがちょっかいじゃないってんだよ」 「いやー、颯希の反応が余りにも可愛いからさ」 「あいつは、あんなナリだし、性格もほわほわしてるから昔っから女だけじゃなく男にもそう言った意味で好かれてきた。もしあんたが冗談でも、アイツのことそういう目で見てるっていうなら……」 「言うなら何?じゃあ冗談じゃなかったらいいの?俺が本気だって言えば君は納得するの?」 「本気だったら尚更!」 「止めるって?」  俺の言葉に被せるようにそう言い放った先輩に、思わず言葉を失う。  さっきまでヘラヘラしていた癖、に真剣な顔でこちらを見る先輩は、今までの雰囲気とは全く違っていて、その先輩の雰囲気に思わず呑まれる。 「誰かを好きになるのに権利も理由も、ましてや他人の許可なんて必要ない。本人の自由だ。そんな自由を奪うって言うの?大体、君は彼のなんだい?ただの幼馴染だろ」  その先輩の言葉が深く俺の心に突き刺さる。  そうだ俺は颯希にとってはタダの幼馴染で、友人で、兄みたいな存在で…  だけど、それでも、 「俺は……!」 「はは、そんな怖い顔しないでよ。心配しなくても颯希の嫌がる事はしないよ。無理やりどうこうなんて気は一切ないし」 「そんなことしてみろ、俺があんたを絶対ぇ許さねぇ」 「おーこわ!そんなに俺が信用出来ないなら君も一緒に部活に入って、俺のこと監視しとけばいいんじゃないかな」 「は?」 「だから、君も颯希や俺と同じ漫画研究部の部員になればいいんだよ!」  ね!なんてウィンクをする先輩に普段であれば何を馬鹿な、と一瞥しただろうが、この時の俺は頭に血がのぼっていて、そんなに言うならやってやらぁ、と言う気持ちでどこから出したのかわからない入部届けにサインを書いていた。  後にこの時の事を振り返ると、きっと全てヒロ先輩の計算で、俺はこの人の掌の上で転がされたんだろうなと思う。

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