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8.恋する幼馴染
奏汰 side
「で、何拗ねてんだ颯希」
「別に拗ねてないもん」
「いや、部活中ずっと部室の隅っこの方にいてふて寝してたじゃねーか」
「し、してないもん」
「ほー。解散した途端、俺の事置いてさっさと部室から出ていっちまって、追いかけたら全力疾走で逃げて、そのまま部屋のベッドに篭ってる今この状態でも拗ねてないって言い張んのか」
そうやって布団にくるまっている颯希の上にボスんっと体重を乗っければぐぇっとカエルが潰れたような声が聞こえたが、そのまま気にせず体重をかけ続ける。
「ちょ、重い重い重い!やめてよそうちゃん!」
「やっと顔出しやがったな」
そう言えば、視線をウロウロさせながら観念したのかボソッと颯希は口を開いた。
「だって……」
「あ?」
「だってそうちゃんが酷いんだもん!」
「はぁ?」
「俺が誘った時は断った癖に、裕先輩に誘われたら入部するとか酷くない?!長年一緒に居続けた幼馴染の願いは聞けなくて知り合って数週間の先輩のお願いは聞いちゃうんだ。俺の方が裕先輩より付き合い長いのに!!そりゃ俺だって、そうちゃんが漫研に入ってくれて嬉しいけれど、嬉しいけど!それと同時に複雑な気持ちになって、嫌だなってモヤモヤしちゃったんだもん!」
そうやって捲し立てる颯希に呆気に取られた俺はポツリ、と思った言葉が口をついて出た。
「お前それ……嫉妬か?」
「なっ、うっ、うぅぅぅ」
そんな俺の言葉に、居た堪れない気持ちになったのか、口をぱくぱくさせた後、端の方に避けた布団を引っ掴んで再び颯希は布団にくるまる。
……やばい。
口元がニヤける。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、布団から顔だけ出して颯希が更に言葉を続ける。
「それに部室に行ったら行ったで、俺の気持ちなんか気づかないでそうちゃんってばずっと、先輩達と楽しそうに話してるし、何だかんだ裕先輩とも仲良くなってるし……って、何笑ってんのさ!」
「いや、別に笑ってねえし」
「口角あげながら否定されても説得力0だかんね!」
そーちゃんのバカ!
なんて言う颯希が可愛くて仕方がない。
あー重症だな、俺。
「なー颯希、わーるかったって。だからそろそろ布団から出てこいよ」
「……」
「お前がいたからだよ」
「……」
「確かに笹原先輩に誘われたから入ったみたいな形になってっけど、俺が漫研に入ったのはお前がいたからだよ」
本当は笹原先輩がお前のこと狙ってるかもしれなくて、それに気が気じゃなくて、宣戦布告みたいなのを受けたから思わず入部するなんて売り言葉に買い言葉で言ってしまったなんて絶対死んでも言えねーけど。
「きっかけは笹原先輩でも理由はお前だよ。それじゃダメか?それにお前が言ってた青春も同じ部活に入ったんだし、一緒に出来るだろ」
「……うん」
「じゃあとっとと、布団から出てきて晩飯食いに行くぞ」
「え、ちょ、わっ」
ガバッ
「もー、そうちゃん強引すぎるよ」
布団を思いっきり剥ぎ取った俺に口ではそう言いつつも、笑顔を見せる颯希に「うっせ、ほら行くぞ」と手を出せばその手を何の躊躇いもなく掴んでくる。
このまま腕を引いて抱きしめられたら……なんてな。
「そうちゃんどうかした?」
「なんでもねーよ」
心の底から溢れそうになった想いに蓋をして、不思議そうな顔をする颯希にデコピンを1発。
俺の不意打ちの攻撃に、目を白黒させながら戸惑う颯希の腕を引きながら階段を降りた。
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