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9.恋する幼馴染
颯希 side
「そうちゃんごめん!今日は先に帰るね!」
「は?ちょ、おい、颯希!?」
後ろからそうちゃんの戸惑う声が聞こえたが俺はそれを無視して校門へ急ぐ。
だって、だって今日は龍先生の新刊「階級なんて飛び越えて」の発売日なんだ……!
そんなことを考えつつ、後ろからそうちゃんの追いかけてくる足音が聞こえない事にホッとしつつ、再び歩調を早める。
そうちゃんに本気で追いかけられたら逃げられないからね、まぁ逃げる必要も特にないんだけど……
けれど今から自分が入手しようとしている本のジャンル的にやはり知られたくないという気持ちが強いわけで、俺は速度を落とすことなく目的地へと向かう。
笹原龍ささはら りゅう、大学生で作家デビューを果たし、その優し気な雰囲気と人好きのする笑顔でファンを増やし、今では純文学からラノベまで様々な分野の小説を書いては世の中に出すそんな有名人。
見た目だけでファンを獲得していったのかと問われれば、勿論それだけではない、笹原龍の書いた作品は売れる、そう業界から言わしめる実力も持っている。
そんな龍先生の書く小説が大好きで、先生の出した作品は必ず全て読んでいた。
俺がアニメにハマるきっかけになったのも、龍先生が手掛けたライトノベルがアニメ化した事によりアニメの世界に触れたからだ。
そして、これは家族やそうちゃんにすら秘密にしている事だけど……俺が腐男子になってしまったきっかけを作ったのも龍先生の作品がきっかけである。
腐女子、男のキャラ同士の恋愛が好きなオタク女子の事をそう呼ぶというのは知っていた。
けれど特に興味を持たなかったし、俺には関係ないジャンルだなと思っていた。
そう、あの日、あの本を読むまでは……
龍先生は様々な分野に手を出している。
そう、様々な……。
端的に言うと龍先生はとうとうBL作品まで世に出したのだ。
勿論、笹原龍としてではなく、BL作家用の別名義で。
けれど笹原龍のコアなファンは名義を変えても様々な情報を入手し、新作情報を掴み取った。
俺もその1人だった。
さて、買ってみたは良いものの、やっぱり初めてのBLはハードルが高いし、勇気がいる。
けれど、いざ読み進めていけばそんな葛藤あっという間に吹き飛んだ。
元々大好きな作家だ。
出している本は全て買って何度も、何度も読み返すほどの。
龍先生の描く世界観が好きだ。
読んでいるだけで引き込まれる文章表現、多彩なキャラクター達。
こんなの堕ちない方が無理だ。
そうして俺は立派な腐男子へと成長しました。
こんな事絶対、絶対誰にも言えないけれど……!!
「あれ、颯希?」
「へ、なんで裕先輩が……」
「ちょっと欲しい本があってさ、と言うかその手に持ってる本って……」
なんて事を思っていた矢先に即バレしました。
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