24 / 173

20.恋する幼馴染

 奏汰 side  ギラギラと照りつける太陽の光  俺たちは大自然の中……では無く、人混みの中にいた。 「あの、俺の記憶違いじゃなけりゃ合宿ってキャンプだって話だったと思うんすけど……」 「あぁそんな話もあったね」  俺の疑問に対してあっけらかんとそう答える深月先輩に思わず怒鳴りそうになった気持ちを押し込めて再び口を開く 「でもこの場所コンクリートジャングルなんすけど、て言うか街中じゃないっすか?!」  最後の方の口調が荒くなったのはもう仕方が無いだろう……  なんせ当日にいきなり何の説明もなく目的地が変更になり、わけも分からず連れてこられ、目的地に着いた途端、颯希、ヒロ先輩、部長の3人が目を輝かせながらどこかに走り去ってしまい残ったのは現状を把握出来ていない俺とそんな俺を見ていつもの笑顔を浮かべる深月先輩だけだったのだから。 「奏汰……これは仕方が無いことなんだよ。俺達は何部だ?」 「漫画研究部っすね」 「そうだ!!俺達は漫画研究部だ!!その部員として今季イチオシアニメである『探偵ですが怪盗です☆』の聖地が特定されたからには聖地巡りに行くしかないだろ!!」 「それ、部長の真似っすか」 「あはっ、よく分かったね」 「いや、まぁ……。て言うかえ、何?聖地巡り??」 「簡単に説明するとアニメに出てくる縁の深い場所を聖地と称してその場所に足を運ぶ事だね」 「はぁ……」  いまいち深月先輩からの説明が頭に入ってこない俺に対し、「まぁアニメに対して特に思い入れの無い俺らからしたらなんて事無い場所であそこの3人にとったら感極まるくらいに興奮する場所ってことだよ」と言って指さした方向へ視線を向ければ無言で写真をひたすら撮るヒロ先輩とその隣で目をキラキラ輝かせながら熱く何やら語っている颯希と部長がいた。 「あんなに楽しそうに、生き生きとしてるのに水を差すのもアレだしさ、付き合ってあげようよ、ね」  そう言ってウインクする深月先輩の口元は笑っていて俺は小さくため息を吐きながらも「うすっ」と返事を返した。 ■□■ 「は~。もう、本っ当に感動した……。まさか焔と氷雨の有名な対峙シーンであるあの場所をこの目で見ることが出来るなんて……。他にも2人が初めて出会った場所や、探偵事務所のモデルになった建物まであるだなんて知らなかったからついついはしゃぎすぎちゃった。あ!そう言えばそうちゃんは知らないんだったよね?ごめん何か俺達ばっかり楽しんじゃって……」 「いや、まぁよかった……な?」 「うん!!話を知らないそうちゃんの為に特別に俺が説明してあげるね!」 「え、いや別に、」 「あのね、焔ってのが主人公なんだけどこれは怪盗をやっている時の名前で本名は不知火朋也しらぬい ともやって言って昼間は探偵、夜は訳あって怪盗焔として活動しているんだ。それでね、そのライバルにあたるのが警察官である氷雨ひさめ 優大ゆうだいってキャラなんだけど、今日行った場所はどこもこの二人に関係のある場所でね……」  それから数時間、夕食を食べに行こうかと言う深月先輩の助け舟が出るまで颯希の『探偵ですが怪盗です☆』プレゼンは延々と続いた。  その傍らで部長とヒロ先輩は今日撮った写真を整理しながらやんや、やんやと盛り上がっていた。 「それにしても急に行き先変更とかよく出来ましたね」 「あーまぁ元々泊まる所は裕のお兄さんの別荘だったからね、断りの電話1本で済んだしそれと同時に今回のこの宿もお兄さんが押さえてくれたんだ」 「ヒロ先輩のお兄さんってやっぱすげぇ人なんすね……」 「おう、裕の兄ちゃん様々だな~」 「なになに?俺の兄ちゃんの話?」 「え、龍先生の話!?」 「いや~本当に裕の兄ちゃんには世話になって有難いな~って話しさ」 「まぁ兄ちゃんは俺に甘いっすからね~」  ふふん、だなんて言うヒロ先輩に仲良いんだな、なんて心の中で思っていれば同じ事を思ったのか颯希が 「仲が良いんですね」  と言った言葉にヒロ先輩は「まぁね」と少し照れくさそうに肯定した。 「俺、お兄ちゃんとかいないから羨ましいです」 「颯希は一人っ子だっけ?」 「はい!深月先輩は?」 「俺も一人っ子だね、雅也はお姉さんがいるよね」 「うげぇ……合宿中に嫌な事思い出させるなよ。あいつは姉じゃねぇ……悪魔だ…鬼だ…閻魔様だ……」 「そんなに凄いんですか?雅也先輩のお姉さん」 「あはは。まぁ、うん……」  そう言っていつものように笑った後、視線を逸らしながら若干の汗をかき肯定した深月先輩の姿は初めて見る姿で、まだ見ぬ部長のお姉さんに俺と颯希が少しだけ恐怖したのは仕方が無いことだと思う。 「裕先輩は龍先生以外にお兄さんいるんですか?」 「いんや、兄ちゃんだけだよー。そいや奏汰も一人っ子?だよな」 「はい」 「あ!でもそうちゃんにはお兄ちゃんいますよ!従兄弟ですけど。俺達が小学生の頃までは一緒に住んでて高校卒業してすぐに警察学校に行って今は警察官やってるかっこいいお兄ちゃんが!」 「へーそうなんだ」 「警察官か~じゃあ相当強いんだろうな」 「すっごく強いです!!そうちゃんが唯一勝てない相手だもんね!」 「あぁ……健兄には1度も勝てた事ねえからな」 「そこらの大人よりよっぽど強い奏汰が勝てない相手か……会ってみたい気もするね」 「もしかしたら街のどこかですれ違ったりしてて~」 「ありえる」  そうやって暫くわいわい話をしながら明日はどうするかなんて会話をしていれば注文した品が続々とやってきたのでそれを片付けにかかった。

ともだちにシェアしよう!