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番外編《それぞの夏休み2》

 雅也 side 「夏休みだーーー!!!……ってのに何で俺は図書館に連れてこられてるんでしょうか、深月さん」  そう、隣の幼馴染に問いかければ満面の笑みと共に俺の疑問への答えが返ってきた。 「え、だって雅也放っておくと宿題やらないでしょ?それで最終日にいつも泣きついてくるじゃん。今年は受験生なんだしどうせ泣きつかれるならもう夏休み初日から図書館にでもぶち込んでさっさと片付けさせた方が良いかなって思って」  そうやって俺の手をガッシリ掴んで離さない深月の表情は笑っているのに目の奥が笑っていないのが分かる。  て言うか握られている手に段々力が篭ってきているのは俺の気のせいだろうか……いや、気のせいじゃねーな!! 「だー!離せよ深月!!折角学校が終わって夏休みが始まったって言うのに初日から勉強なんてしたくねぇよ!せめて今日1日遊んで明日からとかにしようぜ!!」 「ダーメ。毎年そうやって雅也の口車に乗って甘やかした結果が最終日の地獄を見ることになってるんだもん」 「うっ……」 「ほらほらもうさっさと諦めて行くよ。図書館は目の前なんだから」 「うおっ、」  そう言うや否やグイッと腕を引っ張られたものだから身体がつんのめってしまう。  そんな俺にお構い無しに図書館に入ろうとする深月の背中越しに小さく溜息を吐きながら俺はその後に続いた。  この工藤深月と言う男は外見は優男っぽく常にニコニコしていて人畜無害そうなのだが(実際周囲に対してはそうである。)幼馴染である俺に対してだけは容赦が無いのだ。  悲しいかな、幼い頃からの付き合いでそれが痛いほど分かっている俺はこいつに逆らう術など持っておらずただ言いなりになるしかないのである。  ……まぁ逆らう術があったとしても逆らうつもりは毛頭ねぇんだけど。 「雅也、何か変なものでも食べた?」 「はぁ?」  俺が何も言わず素直に深月に連れられ席に座った途端、少し怪訝そうな顔でそんなことを言われる。 「いや、だって普段ならもうちょっとぎゃいぎゃい騒ぐのに今日はやけに素直だなって……気持ち悪い」 「おまっ、気持ち悪いってなんだ、気持ち悪いって……」 「あはは、冗談だよ」 「冗談って顔じゃなかっただろ……。まぁもう図書館の前に連れてこられていた時点で俺に拒否権は無かったわけだしこうなりゃさっさと終わらせてやろーじゃねえかって思っただけだよ」 「雅也のそう言う潔い所好きだよ」 「へいへい、ありがとなー」  そうやってぽんぽん会話を進めながらさて、宿題にでも取り掛かるかと、深月に無理やり持たされた鞄の中をガサゴソと漁っていれば、 「最後の夏休みだし、宿題が終わったらいっぱい雅也のやりたい事付き合ってあげるからさ、ほら頑張れ」 「……最後ったって高校は、だろ。まだ学生っつーんなら大学の夏休みがあるじゃねーか」  なんて深月が言うものだから何の気も無しにそう答えれば 「え」 「あ?」  普段あまり崩れない表情が崩れて間抜けな声を出す深月に俺も思わず疑問符を出してしまう。  そうして二人の間に暫く沈黙が流れた後、その沈黙を破ったのは深月の小さな笑い声だった。 「何笑ってんだよ」 「ふふ、いや、そうだよね、高校は最後だもんね」  声を震わせてそう言う深月に益々俺の頭の上には疑問符が浮かび上がるが、それに対する追求はしてもどうせ返ってこない事が分かりきっていたので未だ肩を震わせ笑い続ける深月から視線を逸らし、俺は高校最後の夏休みの宿題に取り掛かった。 「本当、雅也のそういう所俺好きだよ」 「うっせ、ばーか」

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