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28.恋する幼馴染

 奏汰 side  そんな会話をしていたのがほんの5分前 「はぐれちゃったねー」 「だな」  あまりの人の多さにあっという間に俺達ははぐれてしまっていたのである。  ピロン 「あ、みっちゃん先輩からだ!えっと、あー、みっちゃん先輩達、神社の方に流されちゃったみたい……」 「まじか」  今、俺たちがいるのは花火が打ち上げられる河原付近、神社とは真逆な上にそろそろ始まる打ち上げ花火の為、交通規制がされており神社の方へ移動するとなるとかなり遠回りをしなければいけなくなる。  さて、どうすっか……  ピリリ 「もしもし!みっちゃん先輩?」 『あ、颯希―?』 「はい、颯希ですー。そうちゃんも一緒にいます!」 『そかそか、こっちは雅也と裕がさっきまで一緒にいたんだけどね……』 「さっきまで?」 『裕が突然、何この美味しい展開とかなんとかぶつくさ言い出してそのまま人混みの中に消えてっちゃったんだよねー』 「何ですかそれ……」  そう答えた颯希の困惑が伝わったのか僅かに深月先輩の苦笑が聞こえた。  本当に、何やってんだあの人……  ドーン 「あ、」 「花火始まっちまったみたいだな」 「だね」 『あちゃー、もう今から合流は出来そうもないね。仕方がないから、花火が終わったらまた連絡して合流しようか』 「わかりました!」 『じゃあまた後でね』  ぷつっ 「だってさ」 「あー、大体聞こえてた」 「じゃあ俺達も移動しよっか」 「は?あ、おい、颯希!」  そう言った颯希に手を引かれ屋台の列から抜け出し、人混みをすり抜けて橋の方へ連れていかれる。 「うん!ここからなら花火が綺麗に見れるよ!」 「おー……」  未だ繋がれたままの手に俺の心臓は駆け足で、頭の中は花火どころではない。 「わー、今の連続花火凄かったねー」 「あぁ……」 「ちょっともー、何その気のない返事」 「っ、何でもねーよ!」  手が繋がれたままグイッと顔を近づけてくるもんだから思わず仰け反ってしまう。  そんな俺の反応に眉を寄せつつ「変なそうちゃん」なんて言いながら再び颯希の視線は花火の方へ向いた。  そんな颯希の横顔を見ながらぽつりと言葉を零す。 「でも残念だったな」 「え?」 「先輩達と一緒に花火見れなくて、お前楽しみにしてただろ」 「んーまぁ全然残念じゃ無いってわけじゃないけれど、この人混みだし仕方かないかなって。それに、そうちゃんとは一緒に花火見れたし」  そう颯希が笑った顔があまりにも無邪気で思わず見惚れてしまう。  そうして同時に気持ちが溢れてくる。  分かってる、この発言に他意は無いって事くらい……  それでも  やっぱり  あぁ、  “すきだ”  ドーン 「ん?そうちゃん、なんか言った」 「何も」 「そっかー」  っぶねー!!  なんだ、なにうっかり声に出しちゃってんの俺?!  いや、良い雰囲気だなとか1mmでも思っちまった俺も俺だけどまさかこんなポロッと出るなんて思わねーじゃん?!  でも仕方なくね?  あんな表情されたら心の奥底からグワーッて気持ちが溢れて零れ落ちたんだよ!  畜生!! 「花火さっきので最後だったみたいだねー」 「あぁ、そうだな」  今すぐ頭を抱えてしゃがみ込んで叫び出したい衝動を何とか抑えながら颯希の言葉に返答する。  けれど内心穏やかなんてもんじゃなく、隣で深月先輩と電話をする颯希の会話は右から左へ流れていった。  その後、無事先輩達と合流し、ヒロ先輩の絡みが余りにも鬱陶しく、逆に先程までの気持ちが落ち着いて冷静になったのは余談だ。 「なー本当になんも進展してねーの?からかわねぇからお兄さんに正直に話してみなさい。ほら、ほら」 「だーかーらー!なんもねぇっす!!」  とりあえず放っといてくれ!!

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