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29.恋する幼馴染

 奏汰 side 「おら、颯希。いつまで寝てんだ、今日から学校だぞ」 「うぅ~いやだぁ~まだねてたいよぉ~」 「んな事言ってねぇでさっさと起きろ」 「んぅ〜〜〜」  8月も終わり、今日から新学期が始まる。  あの花火大会の後、結局人混みのせいで一緒に見れなかった打ち上げ花火の代わりに皆で花火をしようと提案した部長の一声によって、急遽次の日、学校に集合しコンビニで買ってきた花火セットを広げ、他の運動部や文化部、残っていた教師まで巻き込んでプチ花火大会が開催された。  まさか学校でやるなんて想像すらしていなかったから最初は「これ、教師に絶対ぇ怒られるだろ……」と思っていたのだが周りの反応はやれやれと言った諦めにも似たような雰囲気で咎められる事もなく、「また雅也かよー」「工藤も大変だな〜」なんて言われ、教師陣からも「たく、ハメ外しすぎるなよー」と、2.3言注意を受けるだけで済んだ。  そうして、いつの間にか周りに人だかりができていたのであった。  本当に部長って人の輪を作るのが上手いよな……  教師陣まで巻き込んで花火って、普通やらねぇぞ……  そんな事があって数週間  いつものように颯希を起こしに来たはいいものの休みの間好きなだけ寝て起きる生活を送っていた颯希は中々手強かった。  こいつ、長期休暇のたびにこれだと社会人になった時どうすんだ…… 「始業式早々遅刻とか笑えねーからな」  そう言って布団を離そうとしない颯希から無理やり布団を引き剥がしながら起こそうと腕を掴んだら逆に引っ張られ、予測していなかった出来事に咄嗟に反応できず俺の身体はそのまま颯希のベッドに倒れ込む。 「そ~ちゃん、いっしょにねよ?」  そんな俺に目をトロンとさせ、舌っ足らずに放たれた颯希の言葉の破壊力たるや……  思わず自分の顔面に拳を打ち付け、ついでに颯希の頭にも一発拳骨をお見舞してやる。  そしてベッドの上でお互い悶絶していれば中々降りてこない俺達を不思議に思った颯希の母さんがやってきて「あらあらまぁまぁ」なんて言いながら「早く降りてこないと朝ごはん食べる時間も無くなっちゃうわよ~」と言われ、俺達は力なく返事をしながら1階へと階段を降りた。 ■□■  ダァン!! 「何で!うちの高校は体育祭と文化祭を同じ時期にやるんだ?イベントごと詰め込みすぎだと思わないか?なぁ奏汰。お前もそう思うだろ?」 「はぁ……」  休み明け、部室に足を踏み入れた瞬間先程まで座っていた部長が突然立ち上がり、俺の肩を揺さぶりながらそう、一息に言った。 「ほら深月!奏汰もおかしいって言ってんぞ!今年はお前会長なんだから何とかして文化祭か体育祭どっちでもいいから日程ずらせなかったのかよ!!」  そして顔だけぐるりと深月先輩に向けて更に言葉を重ねる。 「もー、雅也うるさい。何回も言ったけれどそもそも生徒会長にそんな権限無いから」 「かーっ!何の為に生徒会長になったんだよ!」 「少なくとも文化祭や体育祭の日程をずらす為、ではないかな」  うん、部長も、深月先輩も俺を挟んで言い合うの止めてくんねーかな。  と言うか俺を巻き込むなよ…… 「あ、あの、雅也先輩は文化祭も体育祭も嫌なんですか?」  そう、おずおずと俺の後ろから顔を出しながら言った颯希の言葉に部長は深くため息を吐く。 「違うんだよ颯希、別に俺は文化祭や体育祭が嫌なわけでは決して無い、むしろ大好きだ」 「雅也先輩、祭りごと大好きですもんねー」 「おう。でもな、どうせやるならどっちも思いっきり楽しみたいわけだ、それなのに!!体育祭、文化祭一緒くたにされてたら楽しみが減っちまうだろ?!」 「でも確かにうちの学校って変わってますよね。体育祭も文化祭も一括りにして星雲祭って呼ばれていて、1日目に体育祭、2日目、3日目に文化祭って言うスケジュールですもんね」 「まぁね、体育祭は主に運動部メインで、文化祭は文化部メインだから。クラスでやるのはクラス対抗リレーと展示物だけ、後はそれぞれの部活で出し物やら、競技練習やらするってわけ」 「うちの高校、力入れてる部活動が多いっすからねー」 「そこだよ!」 「どこですか」 「部活動に力を入れるのは一向に構わねーよ!そうじゃなくて、そうじゃなくてさー、」 「つまり、体育祭でクラス対抗リレーしか出れないのが祭り好きの雅也先輩としては不満ってわけ」  そう再びグダグダ言い始めようとした部長の言葉を遮ってヒロ先輩がそう言い放った。 「成程」 「そーだよ!そーなんだよ!!運動部じゃなくったって競技に参加したい奴だっているだろうし、文化部じゃなくったって何か出し物がしたい奴らだっているかもしれねーだろ??それなのに不公平だと思わないか?!」 「はいはい」  そうして止まらない部長のマシンガントークに適当に相槌を打ちながら深月先輩が俺の背中を押しながら部長から距離を取る。 「あの、放っておいていいんですか?」 「いいの、いいの、毎年この時期になるとギャーギャー騒ぎだすんだよ。一通り文句並べたら落ち着いて静かになるからさ」 「は、はぁ」 「ほら、颯希もこっちおいでー。めんどくさい雅也は裕に任せよう」 「俺っすか?!」 「おい、深月、めんどくさいってなんだめんどくさいってーーー!!」  そう叫ぶ部長の言葉にこっちへやってきた颯希と二人、顔を合わせながら、ははは、と乾いた笑いを零した。

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