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32.恋する幼馴染

 奏汰 side 「颯希くん!お誕生日おめでとう〜」 「おめでとう!」 「はい!これプレゼント!」 「あ、私からもこれ」 「え、何、向井今日誕生日なの?」 「マジかー、じゃあ俺からもこれやるよ」 「あ、俺も俺もーほら」 「あはは、皆ありがとー」  教室に入るどころか校内に入った瞬間、擦れ違う人から祝いの言葉やらプレゼントやらがどんどん颯希の元へ集まっていく。  それに対して律儀にお礼を言う颯希の隣に並びながら腕から溢れそうになっているプレゼントを片っ端から紙袋へ突っ込んでいく。 「相変わらずお前の誕生日はすごいな」  そう言いながら小さくため息を吐けば眉を八の字に下げながらえへへ~なんて気の抜けた笑いでこっちを見てくるから小さく蹴飛ばしてやる。  夏休み明けから3日経った9月3日。  今日は颯希の誕生日である。  普段は遠くからキャーキャー言われるか、同じクラスの女子から猫可愛がりされているだけなので忘れがちなのだがこう言ったイベントになるたびに現実を突きつけられるようにして思い出す、こいつの顔面偏差値は異様に高くてモテるのだということを。  けれど俺にとって幸いな事は少女漫画などに多少の憧れは持っているものの颯希自身にはまだ恋人を作るつもりが無いという事と、そんな颯希に告白するような猛者がいないという事。  実際キャーキャー騒がれている割に颯希がこれまで告白されたって話は片手の数で足りるくらいしか聞いたことが無い。  何せこいつは律儀に告白される度に俺の所にやって来ては「そうちゃん、どうしたらいい?!」だなんて聞いてくるもんだから全て筒抜けなのだ。  その度に「自分で考えろ」と、口では言いながらも一々俺に相談してくるのが嬉しい気持ちと、何が悲しくて好きな奴が誰々に告白されたって話を本人から聞かなきゃいけねーんだよって切ない気持ちで複雑な感情が浮かんではぐるぐる回る事を繰り返してきた。  話が若干逸れた。  とにかく、男女平等なおモテになる俺の幼馴染み様の誕生日という事もあって今日の学校は1日謎の活気で溢れていた。  それは生徒だけでなく先生も同様なようで誕生日だからと言う理由で問題をあてられたり、当番にされたり、それは果たして誕生日プレゼントになるのだろうか……?と言う事までやらされていたが祝ってもらえるのが嬉しいようで終始ニコニコしていた。 「さーつき!誕生日おめでとう~!!」 「おめでとう」 「おめでとさん!!」 「わー、ありがとうございます~!」 「奏汰の時のプレゼントはうまい棒だったからな、今回はこれだ!」 「わぁ!雅也先輩、それって『翠の魔法』に出てくるマスコットキャラの《ヴェルデ》のぬいぐるみじゃないですか……!」 「ふふふ、ゲーセンで小銭を費やして獲得したぜ!」 「またUFOキャッチャー……」 「ありがとうございますぅぅぅ!うわぁ、モフモフだー」 「俺からはね、俺のオススメの本なんだけど」 「深月先輩オススメの小説……!すごく興味あります!!ありがとうございます」 「気に入って貰えると嬉しいな」 「んじゃ、俺からはこれ」 「こ、これって……!?」 「俺の兄ちゃんの初出版作品、それのサイン入り本だぞ」 「……っ!!?か、家宝にしますぅ」 「ははは、そんだけ喜んでもらえたならよかったよかった」 「ううぅぅ、先輩方ありがとうございますぅぅぅ」  そう言って泣きだしそうな颯希に大袈裟だなぁなんて笑いが起きた。

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