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33.恋する幼馴染

 奏汰 side  そうして学校でも、部活でも祝われっぱなしの颯希は勿論、家に帰ってから俺や颯希の両親からもめいいっぱい祝われ、俺の誕生日の時と同じ、いや、それ以上のご馳走をたらふく腹に詰め込んで颯希の部屋に倒れ込んだ。 「あー、なんかデジャブだわ」 「だねー」 「毎回毎回、よくあれだけの料理の数作るよな……」 「あはは、有難いけれどちょっと苦しいね」  笑う颯希の方へ顔だけ向けて俺は口を開いた。 「なぁ颯希もういいか?」 「んーまだだめー」  そう、聞いた俺に時計をちらりと見た後、颯希はクスリと笑って首を振った。  時刻は夜の9時、いつもならもう、うつらうつらと夢現な颯希の意識は珍しくハッキリしているようで何が楽しいのかケタケタと笑っている。  そんな颯希に対して俺はまだおめでとうと言う言葉一つ言わせてもらえてないのだ。  言っていないのではなく、言わせてもらえていない。  朝、いつものように颯希を起こしに行って頭が覚醒してきた頃ら辺に誕生日おめでとうと、伝えようとしたその口を思いっきり手で塞ぎ颯希はこう言ったのだ。 「俺が良いって言うまでそれは言わないで」  わけも分からず、ただ頷いた俺に満足そうな顔をした颯希はそのまま学校へ向かった。  それから今まで、他の奴らからのおめでとうは散々受け取ったくせに何故か俺からのおめでとうは受け取らない颯希に疑問符は募るばかりで、けれどどうせ聞いてもはぐらかされるだけだと分かっている俺は颯希の気の済むまで付き合ってやろうと、腹を括ったのだ。  そうして、今日出された宿題を片付けて、風呂に入ってさぁ、寝るかとなったタイミングで颯希に名前を呼ばれた。 「そうちゃん」 「んぁ?」 「言って」  何を、なんて聞かなかったってわかる。  だって俺は今日1日ずっとその言葉を目の前のこいつに伝えたくて伝えたくて仕方がなかったんだから。 「誕生日おめでとう、颯希」 「ん!ありがとう」  くふふ、なんて笑いながらベッドにダイブした颯希にやっと言えたって気持ちと同時に何でここまでお預けを食らったのかと言う気持ちが溢れて零れた。 「で、何で俺はここまでお預けを食らったんだ」 「お預けってなにさ」  俺の物言いがツボにハマったのかケラケラと笑う颯希を軽く小突いてやる。 「だって、毎年そうちゃんは1番におめでとうって言ってくれるでしょ?1番最初に言ってもらえるのもすごくすごく嬉しいんだけど今年はね、どうせなら誕生日の終わりにそうちゃんからのおめでとうが欲しいなって思ったんだ」 「んだよ、そんな事かよ」 「そんな事って何さー」 「そんなの別にお前が言って欲しいって言うなら何回だって言ってやるよ」 「ほんとに?」 「……おう」  そっか、そっかぁ……なんて小さくしみじみと言うもんだから普通の事を言ったつもりなのに照れてしまう。 「そうちゃん、あのね、来年は一番最初と最後だけじゃなくていっぱいいっぱいおめでとうって言って欲しいな」  そうはにかみながら言った颯希の頭を軽く撫でてやりながら、おう。と返してやればふふ、と小さく笑ってそのまま眠りに落ちていった。

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