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47.恋する幼馴染

 奏汰 side 「で、ちゃんとCD持ってきてくれた?」 「当たり前だろ~。はい、これ」 「ん。ほい、颯希」 「あ、ありがとうございます」 「返すのはいつでもいいからさ」 「え、でも、いいんですか?」  そう言いながら斜め向かいに座る龍さんの方を見る颯希に 「あー気にしないで、裕に返そう返そうと思ってて返せてなかっただけだからさ」  と、にこやかに龍さんが言うその言葉にほっと息を吐いて「ありがとうございます」と小さく答えた。  さっきまでの勢いはどうしたんだってくらい今は、緊張しているのか縮こまっている颯希を見ていると心配になってくる。 「そーそー。原稿がー締切がーってなってたもんね」 「お忙しい中わざわざすみません!!」 「はは、全然大丈夫だよ。丁度息抜きしたいな~って思ってたところだったし」 「そうやって息抜きと称して逃げ回るから担当さんから俺に泣き付きの電話がかかってくるんだけど」 「ちょっ、それは言わないでよ~」 「裕先輩と龍先生って仲が良いんですね」 「んふふ~そりゃ可愛い可愛い弟ですから」 「まぁ他と比べれば仲は良い方なんじゃないかな、周りに男兄弟いる奴がいないから世間一般的でしか比べられないけれど」 「あっ、それを言うなら健斗と奏汰くんも仲良いほうなんじゃないの?」 「へ」  そうして、颯希の方にばかり気が取られていれば突然話題を振られて間抜けな声が出た。 「まぁ、悪くはないと思いますよ。従兄弟ですけれど健兄は俺が小さい頃から一緒に暮らしてましたし、本当の兄貴みたいに接してくれてますし」 「確かにそうちゃんと健くんも仲良いよねー。俺は兄弟いないからいつも羨ましかったもん」 「颯希くんは一人っ子なんだ」 「は、はい」 「あ、でも健斗から奏汰くんの話は勿論、颯希くんの話も結構出てたよ。奏汰くんは俺に似て運動神経が良いとか、颯希くんのことは顔が整っているから奏汰くんの好きな子に対する顔面偏差値が異様に高くならないか今から若干不安だとか、仲が良すぎてお互い意外に友達がいないんじゃないかって心配になったことがあるとかそれこそ沢山」 「け、健くん……」 「余計なお世話だろ……」 「でも健斗の不安もあながちてきちゅ「あ、あの!!」」  こ、この先輩は最近、面だってからかってこないと思ったらこういう時にとんだ爆弾を落とそうとするから油断ならない。  話題を変えたくて思わず声を上げた俺は先程から激しく点滅している龍さんの携帯を指さした。 「さっきから携帯すごく光ってますけど出なくていいんですか?」 「あーはは、大丈夫大丈夫。どうせ担当だし」  それって大丈夫じゃないんじゃ……  そんな俺の問いかけに笑ってごまかそうとする龍さんを見て大げさにため息を吐きながら携帯を操作していたヒロ先輩がズイっと画面を龍さんの顔面に突き付けた。 「兄ちゃんならそうするだろうってさっき鈴原さんからライン来たからとりあえずこの店の地図送っといたよ」 「え!?」 「だって鈴原さんがあまりにも可愛そうなんだもん」 「原稿のせいで缶詰になる兄ちゃんは可愛そうじゃないの!?」 「兄ちゃんのは自業自得でしょ~。ほらそうこうしているうちに鈴原さんやってくるよ。騒ぎ起こしたくないならとっとと帰った帰った」 「うぅぅ、裕が冷たい」 「あ、あの龍先生の次の作品も楽しみにしています。えっと、俺、こうやって龍先生にお会いできて感激でした。龍先生がいたから色々世界が広がって、本当に龍先生の作品を読むたびワクワクしてドキドキして、感動や元気をもらってます。その、上手く言葉伝えられないんですけど大好きです、応援しています、無理しないよう、頑張ってください!」 「颯希くんは良い子だな~」 「へ、わっ」 「んなっ」  颯希の言葉に感激した龍さんがガバっと抱きついた。  それを見て思わず声が出たのは仕方がないだろう。  そのまま颯希を解放して「それじゃまた、今度はゆっくり話そうねー」と言って去っていた。  真っ赤な顔でフリーズしたままの颯希を複雑な顔で見ていたらその視線の先でニヤニヤしながら「まぁ颯希は兄ちゃんのファンだから仕方ないよね~」なんて言ってくるヒロ先輩に視線を鋭くすれば「おーこわ」だなんてわざとらしく言うもんだからこの胸のもやもやを取っ払うように未だフリーズして動かない颯希の頭を軽くはたいて現実に連れ戻してやった。

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