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49.恋する幼馴染
奏汰 side
「だー疲れた!」
「くたくただー」
「もう、動けねー」
「お前ら情けねーな」
「いや、松永、お前が規格外すぎるだけだから」
「ちくしょー運動部じゃねー奴に負けた―」
「本当お前は体力お化けだよ松永」
地面に寝ころびながら口を揃えて言う木村達の言葉は軽く聞き流した。
「あ、あの、松永先輩!お疲れ様です」
「おー神楽坂。ありがとな」
「いえ、えっと、そのお久しぶり、です?」
「何で疑問形なんだよ」
「あ、いえ、その、ちゃんと挨拶できていなかったので……」
そう言ってわたふたしながらタオルを渡してきた少女に思わず笑いがこぼれる。
「お前は相変わらず真面目だな」
「松永先輩は相変わらずすごいですね」
「サンキュ。そういやお前も今年受験だっけか」
「はい」
「受験勉強もマネージャーの仕事もお疲れさん」
「ありがとうございます」
他愛もない話をしていれば他のマネージャー達が声を張り上げて
「今からチョコレート配るんで卒業した先輩方もどうぞ並んでくださーい」
と言い出した。
その言葉に先程まで一歩も動けないと地面に突っ伏していた木村達が素早いスピードで起き上がる。
その姿を呆れて見送っていればズイっと目の前にラッピングされたチョコが差し出された。
「ば、バレンタインですから」
「おーありがとな」
「あの!」
「ん?」
「私、星雲高校受けました」
「へー、じゃあ今年からまた後輩だな」
「まだ、受かるかわかりませんけど……」
「まっ、お前の頭なら大丈夫だろ」
そう言って軽く頭を叩く。
「あ、あの!」
「おい松永―そろそろ帰るぞー」
「おー、って、悪い何か言いかけてたよな?」
「あ、いえ、いいんです。その、今日先輩が来てくれて部員のみんなも嬉しかったと思います、私も久しぶりに松永先輩のサッカーしている姿が見れて嬉しかったです」
「何か照れくさいな」
「えっと、それじゃあまた」
「おう、受かってたらまた4月に高校でな」
「はい……」
「そんな心配そうな顔すんなって」
「え、」
「大丈夫、神楽坂なら絶対ぇ大丈夫だよ。俺が保証する。つっても俺の保証じゃ心もとねーかもしんねーけどな」
「そ、そんな事ないです!!松永先輩にそう言って頂けると安心、できます」
そうやって笑った神楽坂の笑顔が颯希と重なる。
神楽坂ってちょっと颯希に似てるんだよな、ほわほわしてるってか何か危なっかしくて放っておけない雰囲気が出てる所とか。
「せ、先輩?」
神楽坂の頭を撫でながらしばらく物思いにふけっていれば一向に手をどけない俺を不思議そうな声で呼びかけてきた。
「あっ、悪ぃ」
「い、いえ」
「まぁあれだ、なるようになる!だからあんまり気負いすぎんなよ」
「はい!」
そうして「またな」と片手をあげ、しつこく俺を呼ぶ木村達の方へ走って行った。
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