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50.恋する幼馴染
颯希 side
「そうだよ~。いいじゃん、後輩くん達の試合見に行ったげなよ」
気が付けばするりとそんな言葉が口から零れていた。
そんな俺の言葉に、一瞬驚いた顔をしたそうちゃんが視界に映ったけれど、それと同時に、俺自身もほんとのところ、自然と出たその言葉に驚いていたんだ。
「そうちゃんと一緒じゃない休日って久しぶりだな……」
そう、1人、自室のベッドに寝転び、ポツリと呟く。
高校入ってからは本当、ほぼ毎日一緒にいたもんね……
「なんか、中学の頃に戻ったみたいだ」
まぁ実際、今日そうちゃんは中学校の部活に顔を出しに行っているわけだけど。
そんなことを独り、心の中でごちる。
生まれた頃からずっと一緒にいて、隣にいるのが当たり前で、お互いの事は多分お互いより分かってる。
そんな唯一無二の存在。
それが本当に自然なことで、俺たちの常識だった。
小さい頃は世界が小さくて、俺たちのそんな関係に否定的な言葉をぶつける人間は誰もいなかったけれど、小学6年生になった頃俺達の関係を『おかしい』って、よってたかってクラスの男子に言われて
あ、俺とそうちゃんの関係ってちょっとおかしいんだ。
なんて事に気が付いた。
まぁそんな事言ってきた奴らはそうちゃんがぶっとばしたし、俺も気が付いたってだけで、それでも別に周りがどう思おうと関係ないしって、考えるくらいには結構図太い性格をしていたわけだけど、そうちゃんは何か思うことがあったみたいで、中学に上がってすぐ「俺、中学はサッカー部に入るから。朝練とか放課後も練習遅くまであるから一緒に帰れねぇし、登下校は別々で行こうぜ」なんて言ってきた。
流石に中学に入ってからも四六時中一緒にいるなんて思っていなかったし、部活だって違う部活に入るだろうなって思っていたから、そうちゃんがサッカー部に入るってことには特段驚きもしなかった。
けれど、わざわざ登下校を別で行こうだなんて言われて、何だか、何だろう、その時初めてそうちゃんから突き放されたみたいで、胸の奥底にもやっとしたモノが渦巻いたんだ。
それでも、そうちゃんに「何で」なんていえなくて、「そう、分かった。確かに朝練早いんだったら俺朝起きられないからそうちゃんに迷惑かけちゃうもんね」とおどけて返すのが精一杯だった。
そうしてそうちゃんは宣言通りサッカー部に、俺は美術部に入って中学に入学してから1年間、初めてお互いのいない生活を送った。
最初は何だかしっくりこなかったけれど、お互いそれぞれ部活で忙しくなってそれごころではなくなっていった。
でも、やっぱり寂しいって感情は心の隅の方にいつだってあったんだ。
だから中学3年生になった頃、そうちゃんのお母さんのかわりに、練習試合の時の差し入れをたまたま持っていく機会があって、そこでその時同じクラスだったサッカー部の木村くん達と話して、何だかんだで仲良くなって、前みたいに毎日じゃなくてもそうちゃんと一緒にいられるようになって、それがすごく嬉しかった。
そんな事を考えているとふっと、頭の中に疑問が浮かんだ。
「何か、俺ってもしかしてそうちゃんに結構依存してる……?」
そう声に出してみていや、でも、そんな、なんて自問自答してみるものの答えなんて出るはずもなく
「あー!やめやめ!さっさっと画材買いに行こ!」
と、勢いよく立ち上がり、コートを片手に引っ掴んで部屋を出たのが数時間前
「何で俺はこんな所に来ちゃったんだろう」
目当ての画材を買って、特に予定もなくぷらぷら街を歩いていたはずなのにいつの間にか俺は母校である 中学の正門に立っていた。
「いや、あれだよ、ほら、卒業生として?ちょっと懐かしいなーって気持ちになったから来ただけであって、別にそうちゃんが気になって、とかじゃないし、うん、全然違うから」
誰に聞かせるでもなくぶつぶつと独り言をつい言ってしまう。
それでも足はサッカー部がいるであろうグラウンドに向かっていて、見知った顔の中にそうちゃんを見つけた瞬間、目の前で繰り広げられた光景に一瞬思考が固まった。
そして気が付いた時には踵を返して俺は来た道を戻っていた。
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