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51.恋する幼馴染

 颯希 side  どこか行く宛があるわけでもなく、ただただ、歩き続ける。  え、俺なんでこんなに動揺してるの?  別にそうちゃんが後輩の女の子からチョコもらってたりだとか、頭撫でてたりとかしたって別に俺には関係ない事だし、別に俺が取り乱す事でもないし……  あの子そうちゃんのこと好きなのかな……  って、だから別にそうであっても俺には関係ない事だし?  いや、全然、全く、これっぽっちも俺が動揺する必要なんてないし!!  そうやってぐるぐる頭の中で言葉が浮かんでは消えてを繰り返すことに一人で耐えられなくなった俺は思わず携帯を握りしめ、コール音を鳴らしていた。 「おー颯希どしたどした」 「急にすみません」 「いや、全然大丈夫よ。てか今日は奏汰は一緒じゃないんだね」 「あー、はい、まぁ」 「ん?何かあった」 「何かあったというか何て言うか……」  どう切り出していいのか迷ってしまってなかなか話し出さない俺を急かすことなく目の前の裕先輩はニコニコ俺の言葉を待ってくれている。  そんな裕先輩の態度に先程まで感じていたちょっとした息苦しさが少しマシになってきて、ぽつりぽつりと抱え込んだもやもやを吐き出した。 「って事があって、一人で処理できなかったので思わず裕先輩に連絡しちゃいました。すみません」  そう、話終わってちらっと裕先輩の方へ視線を向ければ、何故か顔を伏せ、ぷるぷると体を震わせている裕先輩がいた。 「せ、先輩?」 「……ネタが降ってきた」 「へ?」  先輩の口から零れた言葉が上手く聞き取れず思わず聞き返した俺に軽く首を振りながら裕先輩が再び口を開く。 「いんや、こっちの話。まぁーでも奏汰は後輩からはモテそうだよなー。颯希とはまた違ったモテ要素があるわけだし、スポーツ万能だし、見た目もまぁ悪くないし、さりげない優しさとかあるし。そもそも中学でサッカー部のエースだったんでしょ?そりゃ女子が放っておかないわー。颯希が学園の王子様なら奏汰は学園のヒーロだな」  その裕先輩の言葉に思わず「そうなんですよ!」と、大きな声が出て、前のめりになってしまう。  サッカー部にいた頃のそうちゃんが結構モテていたのを俺は知っている。  そりゃそうだ、あれだけ運動神経が良くて、でも気取ってなくて、ぶっきらぼうなくせに面倒見が良くて、それでモテないわけがない。 「松永先輩ってサッカーしてる姿本当にカッコイイよね」  わかる、そうちゃんカッコイイよね  運動神経抜群だもん。  でもそんなそうちゃんのこと1番よく分かっているのは俺なんだよ。  なーんて微かな独占欲と優越感を当時の俺は抱いてた。  だって、いくら後輩の女の子達がきゃーきゃー騒いだところで恋愛に興味がない(俺が勝手に思っていることだけど)そうちゃんが彼女を作るだなんて想像もできなかった。  それでもいつかそうちゃんに好きな人ができたって言われたら俺はどう思うのかななんてことを考えたりもして、胸がざわってなったりもしたんだ。  だから高校に入って、そうちゃんが運動部に入れないってのを知って、試合に出るカッコいいそうちゃんが見れなくなるのは残念だなって感じるのと同時に、よかった、これでそうちゃんのカッコイイ所知ってる人はまたいなくなるんだってそんな想いを抱いてしまっていたんだ。 「おーい颯希ー」 「うぇっ、あ、はい」  過去に思考が飛んでいた俺の目の前でひらひらと手を振りながら裕先輩が名前を呼ぶ。  それに対して思わずへんな声が出た俺に対して笑いながら裕先輩が再び口を開いた。 「いきなり大きな声出したと思ったら今度は黙るもんだから、びっくりしたわ」 「すみません」 「奏汰の事考えてた?」 「えっと、はい……」  裕先輩の言葉に素直に頷く。  そんな俺を見て裕先輩は目を細め、口は弧を描きながら 「で、颯希は何がそんなにもやもやしてんの」  と、言った。  その言葉に咄嗟に返事ができず音にならなかった空気が俺の口から漏れた。  そんな俺の様子を気にせず裕先輩が言葉を続ける。 「颯希はさ、後輩ちゃんと奏汰の仲良さげな雰囲気を見てもやもやしたんだよね、そのもやもやの正体が分からなくて、一人で解決できそうになかったから俺に電話してきてくれた、と、でもさそのもやもやの正体は颯希が自分で気づかなきゃいけないことだと思うんだよね、俺。他人がどうこう言うもんじゃないだろうし、何よりそれじゃきっと颯希が心から納得できる答えって見つかんないと思うんだ。これ、先輩からのありがたいお言葉な」  そう言ってウィンクする裕先輩の言葉を頭の中で反芻する。 「自分で……」  ぽつりと零れた俺の言葉に裕先輩は何だかとても楽しそうに頷いた。

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