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53.恋する幼馴染
颯希 side
そうちゃんが手洗いうがいをしに、洗面所に行っている間、一人、そうちゃんの部屋で俺が勝手に持ってきて、そうちゃんの部屋に置いたままにしている、少し大きめのジンベイザメのぬいぐるみを抱き抱えながらごろごろ床を転がる。
なんだろ、なんか本当に今日の俺おかしいよ。
なんでこんなにもやもやするんだろ。
そうやってうーうー唸っていると部屋の主であるそうちゃんが部屋に戻ってきた。
「今度は何、うーうー、唸ってんだよ。それはそうと寝転ぶならベッドの上にしろよ、踏むぞ」
そう言いながらも俺の体を踏まないよう注意して跨ぐそうちゃんに思わず笑ってしまう。
そうしてそんなそうちゃんに床に転がったままの状態で話しかけた。
「どうだった?中学の後輩くん達と会って」
「まぁ楽しかったぜ。久しぶりに体も思いっきり動かせたしよ」
そう言ったそうちゃんの顔はすごく楽しそうで自分から聞いたくせについ素っ気ない返事をしてしまう。
「ふーん。それで、チョコ貰えた?」
「チョコ?」
「バレンタインだったでしょ。マネージャーちゃん達から、とかさ」
そう、自分で口に出してちくりと胸が痛む。
「おー。まぁ義理だけどな、部員全員に配ってたのもらったわ」
「へー」
「そういや神楽坂って覚えてっか?俺らの一つ下のマネージャーなんだけどよ」
神楽坂、その名前を聞いて思い浮かんだのは昼間、そうちゃんにチョコを渡していた女の子の横顔。
「そもそもサッカー部に差し入れしてた時も同じクラスだった木村君達しか喋ったりしてなかったし、マネージャーちゃん達いっぱいいたし、そんな関わりなかったから覚えてないよー」
「そりゃそうか、いやそいつが星雲高校受けたみたいで、来年から俺らの後輩になるみたいなんだよ。他にも星雲高校受けた奴結構いるみたいでさ、何かなんだろうな、知ってる奴が後輩として入ってくんのってちょっと楽しみだよな」
そうやって俺の知らない後輩ちゃんの話を楽しそうにするそうちゃんを見ていると昼間浮かんだもやもやが再び湧き上がる。
そうしてふっと、去年のクリスマスにそうちゃんから言われた言葉が頭をよぎった。
『ただ何つうかお前の事で俺が知らないことが増えてくのが嫌だって思っちまったんだよ』
あ、そうか……
俺もそうちゃんの事で俺の知らない事が増えるのが嫌だって思ったんだ。
だから昼間のあの光景を見た時も、今こうやって楽しそうに俺の知らない話をするそうちゃんを見てるともやもやが心の中に湧き上がってくるんだ。
そうか、これは、このもやもやはきっと、歪んだ独占欲。
あぁなんだ、やっぱり俺、そうちゃんに依存しちゃってるんじゃん。
そう、今朝、思わず出た言葉が再び頭に浮かび苦笑してしまう。
でも……
「……今更どうしようもないもんね」
気づいた所で今更変えようなんて思わない、思えない、それはきっと周りから俺達の関係が変だって言われた時と同じ感覚。
「何か言ったか?」
ぽつりと零れた本音はどうやらそうちゃんには聞き取られていなかったようで、聞き返してきたそうちゃんに
「んーん、何でもなーい」
と、スッキリした顔で笑って言えば
「変な颯希」
だなんて怪訝そうな顔で言われた。
「変って何さー」
「さっきまでうーうー唸って眉間にしわ寄せてたくせに急に機嫌よくなるとか変だろ」
「色々考えてたんです―。ほら、そんな事よりお母さんのチョコケーキ早く食べてよ。感想言わなきゃだし」
そんな急かす俺の言葉に再び「変な奴」とだけ呟いてそれ以上何も言わず小さな可愛らしいチョコケーキに手をかけた。
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