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55.恋する幼馴染

 奏汰 side 「よっ」 「健兄、急にどうしたんだよ。ちょっと飯食うの付き合えって。話があるなら普通に家に来てくれたら良かったのに」 「あーいや、まぁちょっと、な」  そう、歯切れ悪く答える健兄に俺は首を傾げる。  春休みに入り、日課のトレーニングが終わって一休みしていた今朝、俺の携帯に突然、健兄から連絡が来た。  両親は2人で旅行、颯希はと言うと先週から公開している今人気のアニメ映画をヒロ先輩と観に行っており、1人で暇を持て余していた俺は健兄からの珍しい誘いに飛びつき、健兄が最近よく出入りしているらしい、個室の焼肉屋に連れてこられた。  連れてこられたんだけども、先程から健兄は網に黙々と肉を乗せていくだけで全く口を開こうとしない。  もう、網の上には隙間なく肉が敷きつめられていて煙も黙々と天井に上がっていく。  そんな健兄をただ見つめながら辛抱強く待っていればようやっと口に出した健兄の言葉は 「お前、最近颯希とはどうなんだ」  なんてものだった。  真面目な顔でそんなことを聞かれたので意図が読めず困惑してしまう。 「どうって……」  そんな俺に更に続けて健兄が放った言葉は俺にとってかなり衝撃的なモノだった。 「好きなんだろ、恋愛って意味で」 「……はぁ?!」  平然と言ってのけた健兄の顔を思わず凝視して思いっきり声を上げた。 「は、ちょ、ななな何言って、ナンナンナンデそんなコトってそうじゃなくて、え、は、はぁ?!」 「テンプレートな慌て方するよなお前。まぁ、落ち着けって」  そうやって苦笑しながら言う健兄の態度に顔に熱が集中していくのを感じる。 「おち、落ち着けって、だってそんな健兄が急に、え、ていうかなんでわかって……」 「むしろお前バレてないつもりだったのか?バレバレだって」 「ば、バレバレ……」  その健兄の言葉に夏の合宿でヒロ先輩に言われた言葉が蘇った。 『いやいや、お前が分かりやすすぎるだけだからね?』 「俺ってそんなに分かりやすい……?」 「まぁ颯希の事好きってのは小さい頃からダダ漏れだからなぁ」  その健兄の言葉に思わずガックリ肩を落としてしまう。  周りにはこんなに気づかれているのに本人にはバレてないって……  いや、バレたら困るんだけど……  困るんだけどっ!!  でも全く恋愛的に意識されてないって事でもあるだけで……  そんな風にぐるぐる考えていれば、ぽつり 「まぁお前がわかりやすいってのもあるけど、俺も同じってか……」  と、健兄が呟いた。  そんな言葉に顔を上げれば真剣な顔をした健兄の視線とぶつかる。 「奏汰に頼みってか報告ってかあーなんだ言っておかなきゃいけねーことがあるんだよ」 「……それが今日俺を呼び出した本題ってやつ?」 「おう。……前、文化祭に連れてった奴いただろ、村上昴っつーんだけど」 「あぁ、今年俺達の後輩になるって言う」 「ん、そう。そいつの事さちょっと気にかけてやってて欲しいんだ」  そうやって俺に小さく頼むなんて言う健兄を見て文化祭の頃から疑問に思っていて聞くタイミングをずっと逃していた疑問を口に出した。 「健兄にとってその昴クンはどう言う存在?」 「お前にとっての颯希みたいな感じだな」 「それって……」 「ん、俺の大切な奴」  そう言った健兄の顔は見たことがないほど柔らかくて思わず何も言葉を発せなかった。 「幻滅したか?」  何も言えない俺に少し眉を下げて言う健兄を見て今度はするりと頭に浮かんだ言葉が出ていた。 「俺にとっての健兄はずっとかっこいいよ」  そう、ハッキリ健兄の目を見て言えば、俺の言葉に目を丸くして、ふっと、微笑んで 「ありがとな」  と、小さく呟いた。 「奏汰の高校に昴が入学するってなってからずっとお前には言っとこうって思ってたんだよ。流石にまだ叔母さん達に言うにはちょっと心の準備ができてないけどな」 「確かに、未成年に手をだしたってなるとどんだけ当人たちが好き同士だとしても犯罪だもんね……」 「まっ、まだ手は出してねーかんな!キスしかしてねー!!」 「手だしてんじゃん!て言うか、従兄弟のそう言う事情聞くのすごく恥ずかしいから言わなくていいって!」 「わ、悪ぃ」  そうしてどちらからともなく吹き出した。  ひとしきり笑いあって、目の端に浮かんだ涙を拭っていれば健兄がすっと握り拳を目の前に突きだした。 「昴の事、よろしくな」 「任せとけ」  コツンと拳同士を突き合わせる。 「あ、後この事颯希にも言ってくれて良いから」 「え、良いのか?」 「おう、元々今日颯希も誘うつもりだったし、将来弟になるかもしれないからなぁ」 「健兄!!」 「はは、顔真っ赤」  そう言いながら頭を軽く叩く健兄の顔は今日1番の笑顔で俺はそれ以上何も言葉が出なかった。

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