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5.恋する警察官

 昴 side  そうして俺と健斗さんの奇妙な関係は出来た。  夜、母さんが仕事の日、誰もいない小さな公園の隅にあるベンチで2人で他愛もない事を話す。  そんな時間が俺にとってはすごくすごく幸せな時間だった。 「けんとは、」 「さんをつけろ、さんを」 「けんとさんは、どんな学生だったんですか」 「んぁ?別にふつー」 「絶対嘘だ」 「はー!?嘘ってなんだよ」 「どうせ色々やらかして毎日のように先生に怒られてたんでしょ」 「......黙秘する」 「ほーらやっぱり」 「う、うるせーなー!良いんだよ、学生のうちは好き勝手して!学生の頃にしかできねー事とか沢山あんだから」 「けんとさんは今でも好き勝手生きてそう」 「あれだ、俺は何にも縛られない自由な人間なんだよ。俺は俺の信念のもと生きてるわけ、だから別に好き勝手やってるわけではなくてだな......」 「モノは言いようだね」 「お前そんな難しい言葉どこで覚えてくんだ……ガキのくせに」 「ぷっ、あははは」 「っ、」 「あははははは、はぁ......って、どうしたのけんとさん?」 「あーいんや、お前がそんな笑ったとこ初めて見たなーってか何がそんなに面白かったのか分かんねぇ」  俺が大笑いする横でぽかんと間抜けな顔をする健斗さんを不思議に思い尋ねてみると訳が分からんって顔で言われたその言葉に俺もよくわかんないやって返す。 「何だそりゃ」  そう言ってふっと呆れたようにけれど目を細めて笑う優し気な表情に俺の心臓はポカポカする。  健斗さんといると安心する。  今まで俺の周りにいる大人は俺に関心がないか俺のことモノとして扱うような人達しかいなかったから、健斗さんみたいな大人は初めてだ。  大人なのに子どもっぽい人。  この人とずっと一緒にいたい。  そばに居たい。 「だってけんとさんバカだなーって思って」 「にゃろー」 「へへへ」  健斗さんに頭をワシワシ撫でられるのが好きだ。  俺のこと撫でてくれる人はいなかったから......  大きな手で乱暴そうに見えてけれど優しく撫でてくれるその撫で方が好きだ。  大人の人みんな健斗さんみたいだったら良いのに、何て当時の俺は心から思っていたんだ。 「このクソガキ!」  ガッ 「っ......」 「何だよその目は、大体お前みたいなガキがいるから和葉も苦労するんだろうが、お前なんて産んでなきゃあもっと自由に生きられたのによー。可哀想な奴だよ、もうお前死ねよ。母ちゃんの為だと思ったら出来んだろ?」  あぁまただ......  暫く無かったから忘れていた。  暴力と罵倒。  それが俺が生きている世界。  俺の世界......  健斗さんといると錯覚してしまう。  この世界は優しさで溢れている、だなんて......  だって、健斗さん優しいから。 「おい、何黙ってんだよ。何とか言えよ、あぁ?!」 「ちょ、もういいよ。子供なんか放っておいてホテルに行きましょ」 「たくっ、こんだけちっさかったらサンドバック替わりにもなりゃしねぇな」  そう吐き捨てて母さんと一緒に男は出ていった。  母さんの客がこの家に訪れることはよくある事だ。  そうして決まってその客共は俺の事を目の敵にする。    邪魔だ。  どっか言ってろ。  消えろ。    そうやって暴言を吐くだけならまだマシな方。  けれど彼らは何かと理由をつけて俺に暴力を奮う。  きっと彼らにとったら良いストレス発散の道具なのだろう。  そんな彼らと俺を見ても母さんは何も言わない、ただ見ているだけ。  ヒートアップしそうになったら今みたいに仲裁に入ってくれるけれどそれもただ自分の保身の為だけだ。  俺が本当に死んだら困るのは母さんだから。 「いったいな~。はは、けんとさん、こんな俺見たらびっくりしちゃうかな。」  鏡を見ながら思い浮かべるのはあの人の太陽みたいに眩しい笑顔。 「はは、あれ、何だろ止まんないやこれ......」  ぽたりぽたり、俺の目から溢れ出る雫が床に小さな水溜まりを作った。

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