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7.恋する警察官

 健斗 side 「なっんで、来ねぇんだよあいつ......」  龍に話を聞いてもらい、自分の気持ちを自覚してから1週間。  ほぼ毎日の日課になっていた昴との公園での逢瀬。  それが急にパタリと止まったのだ。 「これは喜ぶことなんだろうな......」  そうだ、夜の公園に子供がぶらついていること自体が異常なのだ。  それが無くなったということは家庭が今上手くいっている、そう考えるのが普通だろう。  そしてそれは警官として、いや、一人の人間としても喜ぶべきことなんだそれはわかってる、わかっているが。 「素直に喜べねぇ」  俺と昴を繋ぐのは夜の公園の逢瀬だけ。  あそこにどちらかが行かなくなれば途切れる、そんな細い繋がりであったことを今突きつけられて胸がつきりと痛む。  あいつと出会って半年、色々な話をした。  けれどあいつの家の住所や通っている学校、俺の家の話、そんなことは一度もしたことがなかったことを思い出す。 「くそ!家の住所くらい聞いとけばよかったな」  そうやって思わずため息を吐いていると突然上司である近藤さんに呼ばれた。 「橘、悪いがここのアパートに行ってくれ、どうやら若い母親がヒステリックを起こしているみたいで近隣住民から通報があったんだよ何か叩く音も聞こえてくるから子供が虐待されてるかもしれんってな、後から篠原も行かせる」 「っ、はい!」  母親  子供  虐待  嫌な予感がした。  近藤さんから指示があったアパートに辿りつくとモノが叩きつけられる音と、若い女性の叫び声が開けっ放しになったドアの方から聞こえてくる。 「何であんた何か産まれてきたんだろう、こんな事になるなら産まなきゃよかった」 「おか、あさん」 「あんたのせいで私の人生めちゃくちゃよ!返して!私の人生返してよ!!」 「っ~」  ドンっ 「っぶね~」  一際大きな声と共に突き飛ばされた小さな人影を見た瞬間、体と口が勝手に動いていた。 「じゃあこいつ俺が貰ってもいいですか」 「だ、誰よあなた!?」 「やだなーただのお巡りさんですよ」 「けん、とさん......」 「警察......?」  第三者の乱入によって戸惑う母親のことはとりあえず無視をして、腕の中の昴に怪我がないか確認をする。 「なんでここに」 「んー近所の人から通報があってな」  昴の質問に応えてやっていると 「何で警察が出張ってくるのよ!!関係ないでしょ、その子は私の子よ、返して!!」  我に返った母親が思いっきり腕を振り上げた。 「って......」 「おかあさんやめて!!」 「離しなさいよ!返しなさいよ!!人の子に勝手に触らないでよ!!!」  そう言って喚く母親から昴を隠すように抱きかかえる。 「いらないって言ったのはあんただろ」 「なっあ、あれは言葉に出ただけで本当にそう思ってるわけないじゃない!」  その言葉にカッと血が上る。 「んだよそれ!!それでもな、言って良いことと悪いことがあるんだよ!あんたこいつの母親だろ、何でそんな事言うんだよ何で、なんで平気でそんな傷つけるようなこと言うんだよ!!そんな言葉を母親に言われてこいつがどう思うか何で考えてやれないんだよ!!!」 「......るさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!」  本当は親になったこともない俺に偉そうに説教する権利も理由も無いってのは頭の隅で分かっていた。  けれどダメだった。  理不尽な母親からの言葉の暴力に何も言い返さない、いや言い返せないでいるこいつを見たら言葉が止まらなくなった。  俺もやっぱまだまだガキだわ  その後はまぁ色々と大変だった。  暴れ回る昴の母親を後から駆けつけた同僚と何とか抑え込みそのまま警察病院へ昴と別々に運び込んだ。  結果、母親はノイローゼと診断されそのまま地元の病院へ入院することに、昴は近くの児童保護施設へ預けられる事になった。

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