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2.恋する後輩
愁也 side
「君ら何やってんの?」
「あぁ?何だあんた」
「関係ねーだろ」
ちょ、それってやられキャラがよく言うセリフっすよ先輩方……
「いやー何かかつあげ?現場に居合わせてしまった身としては見過ごせないんだよねー」
そう言って突然現れた先輩?はニコニコしながらこちらに歩いてくる。
「痛い目見てーのか」
「痛い目、ねぇ……一応俺3年なんだけどその上履きの色君達2年だよね、先輩の事は敬おうよ」
「はぁ?先輩とかんなの関係ねーし」
「怪我したくなかったら先輩は引っ込んでてもらえませんか~」
そう言ってゲラゲラ笑う鷹先輩、真先輩相手に3年の先輩は
「俺、笹原って言うんだけど……」
何て自己紹介を始めた。
こんな時に何名前名乗ってんの!?
そうやって呆れている俺と同じことを思ったのか鷹先輩は更に笑う。
「はー?何急に名乗っちゃってんの?マジウケるんですけど~」
そうやって笑う鷹先輩の隣で真先輩は驚いた表情のまま3年の先輩の顔を見る。
「笹原……ってあの鬼の笹原!?」
「はぁ?んだそれ」
「たっくん、あいつはやべーよ止めた方がいいって、中学の時噂で聞いたことがある……」
「あぁ良かった。1発で分かってくれる子がいて」
そうやって笑う先輩の顔はすっごく笑顔なのに目が笑っていない気がした。
「んなの知るかよ!あんなひょろひょろした奴がお前の知ってる鬼なもんか!」
「たっくん!」
真先輩の忠告を聞かず鷹先輩が突っ込むその瞬間危ないって本能的に叫ぼうとして3年の先輩の方を見れば彼の口元には笑が浮かんでいて
「これだからバカは嫌なんだよね」
「カハッ」
「う、うおぉぉぉ!」
「見た目だけで判断する」
蹴り1発と右ストレート1発で二人とも、のしてしまった。
「まだやるなら相手するけどどうする?」
「ち、ちくしょぉぉぉ」
「お、覚えてろぉぉぉ」
お決まりの捨て台詞を残して去っていく先輩二人には目もくれず俺はただ、目の前の3年の…笹原先輩の動きに見惚れた。
「かっこいい……」
そんな言葉がポツリと零れていた。
■□■
両手をパンパンと払って笹原先輩がこちらに視線をよこす。
「新入生?だよね、入学早々ついてないね。でもさ男なら嫌なことは嫌だってハッキリ言わないと相手調子乗せるだけだよ」
「あ、うっす」
「まぁ先輩だったら仕方ないか。余計なことしちゃったかな?ごめん」
「いや!全然!!ありがとうございました!」
「ん、そっか」
そうやって照れくさそうに笑う先輩の顔に心臓が跳ねる。
何だこれ
「そいや君の名前聞いてなかったね、新入生、君の名前は?」
名前を聞かれてドキリとする。
言いたくない……
言ってそれでもし今までの奴らみたいに態度を急に変えられたらさっきの嬉しかった気持ちが消えてなくなりそうで……
中々名前を言わない俺に笹原先輩は不思議そうな顔をする。
「くじょう、九条愁也です」
「九条って……」
あぁ、やっぱりこの人も。
先輩の次の反応が怖くて顔が見れなくて俺は下を向いたまま目をぎゅっと閉じる。
「あぁー先生や周りが騒いでたっけ九条コーポレーションの息子がうちの学校に来るって。そっか君が、そうなんだ。何か想像していたよりずっとバカっぽいね」
「は?」
「あ、ごめんごめん。思わず本音が」
え、俺今バカって言われた?
まだ会って数秒も経ってない人から?
「ぷっ、あははははは」
「うわっ、びっくりした」
急に笑い出した俺に笹原先輩はぎょっとする。
でもそれでも俺は笑う事を止められない。
だって、仕方ないじゃないか、だって、
「今までそんな事初対面で言ってきた人初めて」
さっきまでこの人の反応を怖がっていた俺が馬鹿みたいだ。
「はーっおっかしい」
ひとしきり笑いきった俺に
「な、何かごめん?」
なんて笹原先輩が謝るもんだから。
「先輩さっきから謝ってばっかっすね」
と返した。
「いや、だって急に笑い出されたらどうしていいかわかんなくなるでしょ」
「っすね、すみません。バカって言われたの家族以外だと初めてで……しかも初対面でぷくく」
「えー、そんなにツボにハマること?」
訳が分からないという顔をしている先輩には悪いけれど笑いが止まらない。
「でも助かりました。あの人達も本当は悪い人じゃないんです……昔は助けてくれてたんです。けどやっぱ人って変わっちゃうんすかね?何か俺の家の金にしかもう興味ねーのかなーって悲しくって言い返せなくて」
「あー」
「だから笹原先輩に名前聞かれて折角助けてもらった所悪いけどもし俺の家の事知ってて助けた礼払えーとか態度ころりと変えられたらどうしようとかちょっと思っちゃって。それなのに笹原先輩の返しが予想外でつい、笑っちゃいました」
「え~俺そんな風に見えた?」
「いや、違く、無いけどえっと」
「はは、冗談だよ冗談」
そう言って、はははっと笑う目の前の先輩に瞬間恋に落ちる音がした。
単純な奴だって笑われてもいい。
助けられて恋に落ちるとかどこの少女漫画だよって脳内でツッコミをいれる自分を隅に追いやる。
「君さ、アニメとか漫画とか興味無い?俺そこの部長してるんだけど今ピンチなんだよねー新入生二人獲得しないと廃部っていわれてて、もし好きだったら」
「好きです!」
「おぉー!本当に!?わー良かったー。これで何とか存続できるわ~。いやさ、さっきは下心とか無いとは言ったもののここで助けて恩を打ってあわよくば部員になってくれたら嬉しいなーって思っててさ~」
そうやって喜んびながら俺の手を掴んできた笹原先輩の手をガシッと握り返す。
「そうじゃなくて、俺先輩の事に好きになりました!俺と付き合ってください!!」
「は?」
あ、ポカーンとした顔の先輩も可愛いな。
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