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16.恋する後輩

 裕 side  そうやって道路を歩いていれば後ろが少し騒がしくなり、そうして 「ひったくりーーーーーーー!」  と、叫ぶ女性の甲高い声が聞こえた。  その声に思わず振り向けば全速力でこちらへ走ってくる男が視界に入った瞬間、進路を塞ごうと咄嗟に愁が前に出た。  そんな愁の腕を俺より先に虎徹が引いてそのまま男に足を引っ掛けた事によって男が盛大にすっ転ぶ。  その瞬間、その男の事よりも虎徹の腕の中に収まっている愁を見て心がざわついた。  そんな自分の心に戸惑っていれば男が立ち上がって情けない呻き声を出しながら逃げようとするので、自身の胸に生まれたモヤモヤを取っ払うように腕を引っ掴んで投げ飛ばした。  ■□■ 「ありがとうございました!」  あの後、鞄の持ち主であるお姉さんが追い付いて、周りの人が通報してくれたのか駆け付けたお巡りさんに男の身柄を引き渡した。  そうして綺麗なお辞儀をしてお礼を言ってきたお姉さんと2、3言、言葉を交わしてそのままそれぞれ家路に着いた。 「……はぁ~」  家について自分の部屋に入った瞬間、俺の口からは盛大なため息が漏れだす。  ため息を吐き出しながら頭に浮かぶ光景は、先程の虎徹の腕の中に収まる愁の事で……  あの時、あの瞬間、俺と虎徹とじゃそんなに距離も変わらなかった。  愁がああいう奴だってのも分かっているつもりだった。  だから、だからこそ……  あいつの事、俺が、俺だけが守ってやりたい……だなんて  あぁ、クソっ  バフッ  大きな音を立ててそのままベッドに沈み込む。  静かな部屋の中では時計の針が時を刻む音ともう一つ、自分自身の心臓の音がうるさいくらい響いていた。  気づきたくなかった。  認めたくない。  だってこんなのなんだよ、まるで少女漫画じゃねーか。  颯希の言葉を思い出す。 「裕先輩って何だかんだいいながら最初の頃から愁に対して結構甘い所ありましたよねー。実はもう既に絆されていたりして……った~酷くないですか!?いきなりチョップとかは無しでしょ!!え、何ですかそのすごく良い笑顔……イエ、ナンデモアリマセン……うぅ、無言の圧がすごい。あ、でもでも本当に何かあったらきちんと報告してくださいよ!決まってるじゃないですか!!裕先輩が愁に惚れるようなことがあったらってことですよ!!」  ……いやいやないない、俺があいつを、とか  無い、よな……  だぁぁぁぁ!!  バフッバフッ  自分のそんな思考回路に居たたまれなくなり、八つ当たりするように枕を叩いていれば静寂を切り裂くように無機質な電子音が鳴り響いた。  その音に一瞬体を固くして、そうして画面に映し出されている名前を見て、今日何度目になるか分からないため息が部屋の中に響いた。

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