109 / 173

17.恋する後輩

 裕 side 「よっ」 「よっ、じゃないよ。今日は一体何の用、兄ちゃん」 「んー用がないと会いに来たらいけない?」 「何その恋人に言うみたいなセリフ」 「ドキッとした?」 「帰る」 「わー待って待って、俺が悪かった、ふざけすぎました!ごめんなさい!!」  パンッと目の前で両手を合わせて謝る兄ちゃんに帰ろうと浮かした腰を椅子に下ろす。 「で、何」 「俺からは何ってのは無いんだけど……」 「え、本当に何の用事もなく呼び出されたの、俺」 「いや~、俺じゃなくて裕の方が何かあったんじゃないの?」  そう、俺の目を真っすぐ射抜きながら微笑んだ兄ちゃんの表情があまりにも優しくて、そして何もかも見透かしてるみたいで居心地が悪くなる。 「べ、つに、そんなの無いし」 「視線が定まってないぞー、はは、本当に裕は分かりやすいなー」 「そんな事言うの兄ちゃんだけだよ、これでも俺ポーカーフェイスで通ってるんだから」 「兄弟愛のなせる技だね!」 「脈絡が無いよ……」  そうやってポンポンと会話が続く間も兄ちゃんはニコニコ笑って俺を見ているし、俺は俺でそんな兄ちゃんの顔がまともに見れなくてつい、視線を逸らしてしまう。 「だって裕、電話した時声にいつもの覇気が無かったし、これはなんかあったなーって思ってさ!」 「え、あの短時間の電話でそんなこと感じとったの?気持ち悪い」 「ひど!兄弟愛だって言ってるじゃん!!」 「えぇ……」  俺のそんな態度に傷ついた!と、言わんばかりの顔を一瞬だけ作って再び笑顔になり俺に言葉を投げかける。 「それでそれで、何があった?頼りになるお兄ちゃんに話してごらん」 「自分で頼りになるとか言うなよな」 「うーん、ここまで頑なに口を開かないとなると……もしかして恋の悩みとか?」 「……っ」  そんな兄ちゃんに言葉が詰まる。  俺のその態度を見逃すなんて目の前の兄ちゃんは間抜けじゃなくて驚いた顔をして途端に興奮したように顔を輝かせ始めた。 「え、うっそほんとに?!」 「兄ちゃんうるさい」 「前言ってた後輩君?」 「っ、」 「図星だ。裕がそんなわかりやすい反応するのも珍しいねー」  ケラケラと笑いながら言う兄ちゃんに対して言い返す言葉が何も出てこない。 「そう言う事なら可愛い可愛い弟の為に兄ちゃんが一肌脱いであげよう」 「いや、別に頼んでないし、て言うかまだそうと決まったわけじゃないし……」 「ははーん、成程。今まで気づいていなかった恋心を何かがきっかけで自覚しちゃったって訳か、でもそれを認めたくなくて今必死にあれこれ言い訳を探してるわけだ。いいねぇ、甘酸っぱいねぇ、青春だねー!そう言う展開、俺大好き!!」  そう、にこやかに言い放った目の前の兄ちゃんをぶん殴りたくなる。  なんでこの短時間でそこまで想像が働くんだよ!  普段から妄想ばっかしてるからか?!  て言うか、実の弟さえ妄想のネタにすんなよな!  心の中でそんな言葉が浮かんでは消える。  だって全部、図星だって言うことくらい自分で分かっているから…… 「素直になっちゃえよー。賢い裕の事だから本当はもう全部自分の中で答えは出てるんだろ?」 「……何かすごく偉そうでちょっと腹が立つ」  何もかも見透かしてるような視線が突き刺さる。  あぁ、あぁ!もう、そうだよ!!  最初から、あの時、虎徹の腕の中に収まった愁を見た瞬間、自分の中に浮かんだ感情を認識した時にもう答えは出てたんだよ!  それを認めるのが気恥ずかしくてちょっとらしくなく葛藤しただけで本当は多分、もっと前から答えは出てたんだ。  けど、それを簡単に兄ちゃんに言うのは何だかムカつくのでジト目で言葉を放つ。 「兄ちゃん偉そう」 「なんてったって、恋に関しては先輩だしな」 「まだそんなに経ってないくせに。しかも俺のおかげだし。」 「はは、その節をお世話になりました。て言うか、その時お前が言ったんだろ、恋は落ちるものだって理性や理屈なんてのは感情の前では全部無意味なんだって」 「うっ……」 「まぁ、後悔だけはしないように、兄ちゃんは裕の味方だから」  そう言った兄ちゃんの顔は揶揄うような笑顔じゃなくて優しい兄の顔だったから何だかこれ以上維持を貼るのが馬鹿らしくなって素直に言葉が口をついてでていた。 「あーうん、まさかあんだけ兄ちゃんに言った言葉がそのまんま自分に跳ね返ってくるとはね……」  そう、ため息混じりに出た言葉に 「まぁ似た者兄弟ってことで!」  なんて笑って言うものだから思わず俺もその言葉に吹き出した。

ともだちにシェアしよう!