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20.恋する後輩
愁也 side
「ちょっとヒロ先輩に呼ばれたから外出てくる!すぐ近くだし心配はいらないから!!」
「え、ちょっと坊ちゃん?!」
後ろから高橋の戸惑った声が聞こえたけれどそれは無視して飛び出す。
少し小走りになりながら指定された公園へ行けば入り口で立っているヒロ先輩を見つけて自然と顔が綻ぶ。
そんな俺にヒロ先輩も気づいたのか目と目が合って俺の名前を呼んだ。
「愁」
「先輩!」
「悪かったな、折角帰ったのにまた呼び出して、親御さん大丈夫だったか?」
そうやって気遣ってくれる先輩の言葉にキュンッ、と胸がときめく。
それと同時に一瞬、家を飛び出すときに聞こえた高橋の戸惑った声を思い出したけれど一応ヒロ先輩に会いに行くって伝えているし大丈夫だろうと頭の隅に追いやる。
それよりも高橋の名前を聞いて不思議そうな顔をするヒロ先輩にそう言えば高橋にヒロ先輩やさっちゃん先輩達の話は毎日のようにしているけれど高橋の事を話したことはなかったなという事に気が付いた。
いや、まぁ話す機会も特になかったし、わざわざ話すことでもなかったからなぁ……
ヒロ先輩に聞かれて改めて高橋について考えてみたけれど、上手い言葉が見つからない。
俺が生まれる前は兄さんの教育係をしていて、俺が生まれてからは俺の世話係として忙しい両親の代わりにずっと傍にいてくれた。
35歳独身、彼女無し。
俺が知っている高橋の情報なんてそれくらいで、そのまんま世話係だって事だけ伝えておく。
そんな俺に対してちゃんと外出の許可は取ったのか?なんてヒロ先輩が聞いてくるのでそのまま飛び出してきたと言えばヒロ先輩は片手で頭を抱えた。
いや、そもそも別に外に出ることに高橋の許可なんて取る必要ないし……
そもそもそんな権限高橋には無いし……
そう、ぼんやりと考えていれば、ため息を吐いたヒロ先輩な思わずキョトンとしてしまう。
「呼び出しといてなんだけど、ほんと俺の言うことなんでも聞くよな」
そんなヒロ先輩の言葉に間髪入れず自然と
「だってヒロ先輩が好きだから!」
なんて言葉が口をついて出ていた。
いや、だって本当にそれ以外の言葉は出てこない。
俺のそんな告白もまたいつものように飄々とした態度で軽くあしらわれるんだろうなぁ……なんて考えていたからヒロ先輩から発せられた言葉を最初は理解できなかった。
「俺もお前が好きだよ」
「へ」
思わず固まった俺に構わずヒロ先輩の口から出てくる言葉は止まることがなく、それを確かに俺の耳は聞いているはずなのに思考が停止して上手く拾うことが出来ない。
けれどじわじわと脳に先程のヒロ先輩の言葉が浸透していく。
おまえがすきだよ
すきだよ
すき……?
だれが?
ヒロ先輩が?
俺の事?
じわじわと頬に熱が集まってくるのが感覚的に分かった。
そんな風に無言のまま固まっている俺の顔をじっと見つめてきたヒロ先輩の視線に耐えられなくて思わずバッと顔を逸らす。
「はは、顔真っ赤」
「え、へ、だ、だって、え?」
指摘された顔のことなんかよりもヒロ先輩からの言葉が上手く処理できず、視線を決して合わせないよう、忙しなく視線を泳がしてしまう。
そうして言われた言葉を確かめるように俺の口から言葉が零れていた。
「ひろせんぱいが、おれのこと、すき?」
「そうだって言ってんだろ」
「……ゆめみたい、っていたた」
「お前なぁ、これでも勇気だして告ったんだけど」
ぽけーっと思わず突っ立っていた俺の頬を軽くヒロ先輩が引っ張る。
「いひゃい、いひゃいです!ひろしぇんぱい!!」
「たくっ……」
「あの、」
「あ?」
「もしかして先輩、照れてます?……ったぁ~!」
そんなヒロ先輩の行動が何だかいつものスマートな姿とは違っていて、思わず思ったことをそのまま指摘すれば軽く頭を叩かれた。
そんな行動に思わず笑い声が零れて、それと同時に両目から何故だか涙まで零れ落ちていた。
そんな俺に慌てるヒロ先輩を見ながらも結局数分間、俺の涙と笑い声は止まることがなかった。
■□■
「じゃあそろそろ日も暮れてきたし、あんまりお前のこと引き止めてその高橋さん?って人から接触禁止令出ても困るし、帰るか」
俺が落ちついたのを見てヒロ先輩が言ったその言葉に思わず
「高橋にそんな権限ないですよ?」
なんて返す。
そんな俺の言葉に
「まぁなんだ、好きな奴の身内には良く思われたいだろ」
だなんて少し照れくさそうに言うから再び頬に熱が集まる。
「好きな奴……!」
好きな奴、なんて言ったヒロ先輩の言葉を噛み締めるように呟いた俺に対して「あぁ」なんてヒロ先輩が声を上げるから
「何ですか?」
と、応じてヒロ先輩の方へ顔を向ければ今日1番なんじゃないかという程、とびっきりの笑顔で
「言っとくけど俺が上だからな」
なんて言われた。
「先輩のが年上なのはわかってますよ」
「そういうことじゃないんだけどまぁいいか、お前、俺の言うことならなんでも聞くもんな?」
ヒロ先輩の言っている言葉はよく分からなかったけれど、よく分からないまま素直に頷いておいた。
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