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21.恋する後輩

 愁也 side 「坊ちゃ~ん」 「あ、ただいま高橋」 「あ、ただいま高橋、じゃないですよ!一体今何時だと思っているんですか!」 「えーまだ20時前だよ。それに俺ヒロ先輩に会ってくるってちゃんと言ったし!」 「私の返事も聞かずそのまま飛び出していかれましたけどね」  そう言って呆れたような視線を向ける高橋に曖昧に笑っていれば小さくため息を吐かれた。 「高校生になってから頻繁に外に出られることが増えましたね、社交的なことは大変素晴らしい事だと思いますが、こうも頻繁に出歩かれるようなら送迎くらいさせてください」 「それはヤダ!」 「ヤダって……」 「それに兄さんの時だって高校生になる頃にはもう送迎なんてしてなかったじゃん。お父さんだって中学までは心配だから強制だけどそれ以降は俺の好きにしていいって言ってくれたし」 「彰様は私の胃薬を増やすようなことは一切いたしませんでしたから」 「何それー、まるで俺は高橋の胃痛の原因を量産しているみたいな言い方じゃない?」 「だってそうでしょう!」  突然の大声に思わず後ずさりしてしまった俺の事なんか気にした様子もなく興奮気味に高橋の口から言葉が飛び出す。 「昔から人を疑うって事を奥様のお腹の中に忘れてきたのかというほど純粋で、それは坊ちゃんの良い所だとは思いますが悪く言えば騙されやすくて知らない人にも警戒心を抱かないから小さい頃なんてすぐ誘拐されそうになって、何度ハラハラさせられたか……そうしてとうとう前回は不良に廃工場なんかに連れていかれたなんて聞かされたんですよ!!」 「うっ、」 「しかもその事を嬉々とした顔で事後報告を受けた私の心情がわかりますか!?お願いですからもう少し危機感を持ってください!あの時ほど無理矢理登下校も送迎をしていればと後悔したことはありませんでしたよ!!」 「いや~何か慣れだよね、慣れ」 「そんな慣れはいらないんですよ!」 「どれも未遂だったからいいじゃん」 「よくありません!そう言う危機管理意識の薄さを嘆いているんですよ、私は!それに前回のは未遂だったわけじゃないでしょ、連れ去られてるじゃないですか!先輩さんに助けられたっていいますけど、連れ去られたのもその先輩さんが原因なんでしょ、危険な人とはあれほど関わってはいけませんと言っていたのに……」 「ヒロ先輩は危険じゃないし、俺の好きな人だし」 「はいはい、坊ちゃんがどれだけヒロ先輩を好きなのかはそれこそ入学当時からずっと聞かされ続けているので分かっています」  入学式、ヒロ先輩と運命的な出会いを果たした俺はその日、家に着くなり高校初日で何か大変なことは起こらなかったかと心配してくる高橋に対しありのまま自分の身に起こったことを伝えた。  そう、ありのまま全てだ。  高校生になって初めて恋をした、って。  俺のその話を最後まで聞き終えた高橋が言った「とても強い女性だったんですね」の一言に「え、ヒロ先輩は男だよ」と、答えた俺に高橋の笑顔が凍り付いたのはその最初だけで、それから毎日毎日ヒロ先輩のかっこよさや、好きな所を学校生活の話と混ぜて延々と語っていくうちに俺の気持ちが本物だという事を理解した高橋の口から俺のこの恋を止めるような否定の言葉は出てくることは無くて、時にはアドバイスをしてくれる良き話し相手となっていた。

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