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22.恋する後輩
愁也 side
「本当に坊ちゃんには振り回されてばかりです」
「兄さんと違って?」
「そうですね、彰様は幼少期から同じ年頃のお子様たちと比べてみても大分大人びた方でしたから……今思えば当時教育係であった私が彰様のお母様がお亡くなりになった時もう少し彰様の心に寄り添えていればまた違ったのかもしれませんね」
そう、少し寂し気に微笑んだ高橋の顔を見ていると胸がきゅっとなって思わず俺の口から言葉が突いて出た。
「でも、兄さんはそんな事気にしていないと思うよ!」
「え?」
「だってこないだ会った時、俺の話を聞いてくれた後、真っ先に高橋は元気?って気にしてたもん。高橋にあんまり迷惑かけちゃいけないよ、とも言われたし」
「そう、ですか……って、彰さんにお会いしたんですか?」
「うん、ドラマの収録が一通り終わって時間ができたからご飯でも行こうかって誘ってくれて、その時にヒロ先輩の事も相談したんだ!ちょっと苦笑いしていたけれど真剣に最後まで聞いてくれたよ!!」
「私だけでなく彰様にまでご迷惑を……」
再び呆れた視線を高橋から向けられて今度はついそっぽを向いてしまう。
「兄弟なんだから迷惑くらいかけてもいいじゃん……」
「ほどほどにして下さいね、お忙しいでしょうしただでさえ芸能人なんてストレスの溜まる大変なお仕事をされているんですから……お元気そうでしたか?」
「元気そうだったよ、あ、でも少し雰囲気が変わっていたかも」
「雰囲気が?」
「うん、こう、何かぽやぽやしてた!その日、夜から人と会うって言っていたからもしかしたらデートだったんじゃないかな」
「あ、彰様にそんな人が!?お相手はどんな方なんでしょうか、変な輩じゃありませんよね、坊ちゃんよりかはしっかりしていると言っても彰様も彰様で騙されやすいですから変な女性に騙されていたりしたら……」
「ちょ、冗談だよ。デートかどうかは分かんないって!何となく雰囲気からしてデートっぽいなーって俺が勝手に思っただけだし……て言うか、そんなに兄さんの事心配なら高橋から直接連絡すればいいのに」
「いや、それは、ちょっと……」
「……昔、兄さんが言ってたんだ」
高橋の煮え切らない態度につい昔兄さんから「秘密だよ」と、俺にだけ話してくれた内容がポロリと口から出ていた。
「歳は少し離れているけれど高橋の事兄さんみたいに思ってるって、俺が産まれた時、複雑な環境の中弟ができてどう接して良いか分からなかったけれど高橋にしてもらえて嬉しかったことをこっそり真似してたんだって」
「彰様がそんな事を……」
「恥ずかしいから本人には言えないけどって」
「それ、私に言っても良かったんですか」
「聞かなかったことにしてよ」
「……坊ちゃんは本当に、」
「なに?」
「なんでもありません。その、ありがとうございます」
「へへへ、どう致しまして!」
高橋がふっと笑ってお礼を言ってくるので少し照れくさくて笑いが漏れてしまった。
「それにしてもヒロ先輩からの要件は何だったんですか?」
「それ聞く?聞いちゃう??」
高橋からのそんな質問についそんな問いかけをしてしまう。
いや、本当は帰ってきてからずっと言いたくて言いたくてうずうずしていたんだけどね!
タイミングが掴めなかったというか、少し照れくさくなってきたというか、実はあれは夢だったんじゃないかって少し疑念が浮かんできたというか……
「いや、言いたくないなら詮索はしませんけど」
「引き下がるの早くない!?もう少し粘ってよー」
「どうせ坊ちゃんの事ですから、ヒロ先輩関連のことについて誰にも話さず黙っておくなんてことできないでしょうし」
「うっ、流石高橋、よくわかっている」
ま、まぁ流石にお父さんやお母さんにはまだ言えないけれど俺の秘密の恋心を知っている高橋にだけはきちんと伝えておかないとだもんね!
お付き合いをするってことは今よりもっとヒロ先輩と出かけることも多くなるだろうし、何だか仕切にヒロ先輩も高橋の事気にしていたから一回紹介しておいた方がいいかもしれないし!
そう、心の中で自分自身に言い聞かせて小さく息を吸い
「ヒロ先輩とお付き合いすることになった」
と、言った俺の言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔で間抜けな声が高橋の口から洩れた。
「はい?」
「だーかーらー、ヒロ先輩に告白されたの!!」
「そ、それはおめでとうございます?」
「何で疑問形なのさー!?」
「いや、坊ちゃんのお話を聞いているとあまり脈がありそうになかったので……。」
「何それ、いつも俺の話聞きながらそんな事思っていたの!?」
「あぁ、口が滑りました」
「酷くない!?」
そう、思わず叫んだ俺にはははなんて高橋が笑うものだからつい、むくれてしまう。
そんな俺の頭に手を置いて、優しい手つきで撫でながら、
「冗談ですよ、良かったですね、坊ちゃん」
と、言ってくれた。
そんな高橋の笑顔と言葉に俺の世話係になった初めての朝
「私はこれから先ずっと、坊ちゃんの味方でいます。大袈裟だと思われるかもしれませんが例え世界中の人間が坊ちゃんの敵になったとしても、旦那様や奥様が反対するようなことがあったとしても高橋だけは愁也様の味方でいることをその胸に、記憶に留めておいてくださいね」
と言ってくれたことを思い出して言葉に詰まってしまった。
「っ、そう言うことだからまぁ、高橋も今年こそは良い人見つけなよね!」
照れくさくてそれを誤魔化すように、つい、笑顔で言った俺の言葉に「余計なお世話です!!」と、今日一番の高橋の大きな声が屋敷中に響いた。
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